逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』を読んだ感想

2024年1月2日火曜日

小説 読書

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私的評価

逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』を図書館で借りて読みました。

図書館で予約しましたが10か月ほど待たされたという人気作。新聞で同書の広告を見てずっと気になっていて、図書館から本が用意できましたとのメールが来た時は、やっと読めると思うと心が弾みました。
分厚い本でしたが、最初から物語に引き込まれ、最後までずっと引き込まれたままで、あっという間に読めました。しかし、待った10か月の間にこの本への期待が大きく膨らみ過ぎて、いざ読んでしまうと「それほどでも…」と思えてしまった私です。
私は『スターリングラード』という映画が好きで何回か観ており、この本の狙撃兵の戦闘の様子を映画から想像できました。それにより、より一層緊迫感が感じながら読めました。この本を読む前に映画『スターリングラード』を観ることをお勧めしたいです。

★★★☆☆

『同志少女よ、敵を撃て』とは

単行本として早川書房より、2021年11月17日に出版されました。著者である逢坂冬馬が、第11回アガサ・クリスティー賞を受賞したデビュー作です。第166回直木三十五賞候補に挙がり、2022年本屋大賞及び第9回高校生直木賞を受賞しました。

内容説明
1942年、モスクワ近郊の村に暮らす少女セラフィマの日常は、急襲したドイツ軍によって突如として奪われた。母や村人は惨殺され、自らも射殺される寸前、赤軍兵士イリーナに救われたセラフィマは、復讐のため狙撃兵になることを決意する。同じ境遇で戦うことを決めた少女たちと共に訓練を重ねた彼女は、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へ。おびただしい死の果てに目にした“真の敵”とは?本屋大賞第1位。

著者等紹介
逢坂冬馬[アイサカトウマ]
1985年、埼玉県生まれ。明治学院大学国際学部国際学科卒。2021年、本書で第11回アガサ・クリスティー賞を受賞してデビュー。本書は2022年本屋大賞、第9回高校生直木賞を受賞、第166回直木賞候補となった。2023年には第二長篇『歌われなかった海賊へ』を刊行、第15回山田風太郎賞の候補となった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

紀伊國屋書店

感想・その他

この本で描かれていた独ソ戦について読み進めるうちに、私は自分がこの戦争について、いかに何も知らなかったかを思い知らされました。恥ずかしながら、「ナチス・ドイツとソ連が戦ったことがある」という程度の知識しかなく、独ソ戦が1941年から実に4年近くにわたって続いた大規模な戦争であったこと、そしてその犠牲の凄まじさに、ただただ圧倒されました。

とくに衝撃だったのは、ソ連側の死者数です。軍人だけで約1470万人、民間人を含めると推定で2000万人から3000万人という、桁外れの数字が記録されています。ひとつの国でこれだけの命が失われていたという現実に、改めて戦争の非情さと重みを感じました。一方、敗戦国となったドイツもまた、軍人の死者が約390万人、民間人を含めると600万人から1000万人にのぼるとされています。

比較のために、日本の第2次世界大戦による死者数も調べてみると、軍人・民間人あわせて約310万人とされています。もちろん、数の多寡だけで悲劇の深さを測ることはできませんが、それでも独ソ戦が人類史上最大級の消耗戦であり、あまりにも多くの命を飲み込んだ「地獄の戦場」だったことは明らかです。

戦況の推移もまた、想像を絶するものでした。1941年6月、ナチス・ドイツがソ連への奇襲をもって開戦。緒戦では電撃戦(ブリッツクリーク)によってドイツ軍が優位に立ち、1943年7月の「クルスクの戦い」まではドイツの攻勢が続きました。ところが、この戦いを境に情勢は一変。史上最大規模の戦車戦となったクルスクでの敗北を機に、ソ連軍は反転攻勢を開始し、徐々に押し返していきます。そして終盤には東欧諸国からドイツ本土に至る広大な地域を占領し、最終的には首都ベルリンにまで迫ります。

1945年5月8日、ベルリンでドイツが無条件降伏の文書を批准し、独ソ戦はようやく終結しました。すべてが灰になった後に残ったのは、無数の死者と、廃墟と化した街、そして復讐心と恐怖を引きずる人々だけでした。

当時、西側諸国であったイギリスやアメリカが「敵の敵は味方」という現実的な戦略のもと、ソ連に軍事援助を行ったことも、印象的な歴史の一面です。レンドリース法のもとで大量の戦車、航空機、食糧、医薬品がソ連に供与され、それがソ連の粘り強い防衛と最終的な勝利を支えました。しかし、その「共闘」は戦争が終われば脆くも瓦解し、ほどなくして米ソは冷戦という新たな対立の時代へと突入します。

ドイツの侵略から必死に国土を守り抜いたソ連が、その数年後には今度は「脅威」として西側諸国から警戒されるようになる——歴史というものは、皮肉と逆説に満ちていると、改めて思わされました。当時の兵士や市民の誰が、血で塗られた勝利の果てに、また新たな緊張と対立が待っていることを想像できたでしょうか。

独ソ戦は、単なる数字の羅列ではなく、一人ひとりの命と記憶が積み重なった巨大な物語です。本書を読んで、その断片に触れられたことは、歴史を「知識」ではなく「実感」として心に刻むきっかけとなりました。



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1964年生まれ。糖尿病を患ってから、自転車と歩くことを趣味にしています。毎日クスリ飲んでます。

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