私的評価
海外連続ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン5を観ました。全10話、Amazonプライムビデオでの視聴です。
シーズン3とシーズン4は私にとってイマイチの「ファーゴ」でしたが、今作のシーズン5はシーズン1以上の面白さでした。Amazonプライムビデオの視聴でしたが、配信が一週間(?)置きだったので、次の配信が待ち遠しい日々を過ごしました。「ファーゴ」の真骨頂はキャラクターの個性ですが、今作も一人一人のキャラクターが間際っていました。とくに得体のしれない殺し屋マンチは、恐ろしくもありますがなぜか愛しいキャラクターでした。
最後は悲しい結末を迎えることの多い「ファーゴ」シリーズですが、今作の最終話の最後もそんな場面を迎えます。しかし、珍しくハッピーエンド、それがまた良かったです。根底にあるのは重いテーマだと察しますが、「ファーゴ」シリーズ随一の傑作ドラマと考えます。
★★★★★
作品概要
原案・脚本はノア・ホーリー。
製作総指揮はノア・ホーリー、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエンほか。
主演はジュノー・テンプル、共演者にはデイヴィッド・リズダール、ジェニファー・ジェイソン・リー、ジョン・ハム、サム・スプルエルほか。
今作の舞台は2019年のミネソタ州とノースダコタ州です。主人公ドロシーが間違って警察官に危害を加えたことにより犯罪者に。それで指紋を取られたことにより、一見普通の主婦は捨て去った過去から追われることになります。2023年11月22日よりAmazonプライムビデオで配信されました。
作品の紹介・あらすじ
あらすじ
2019年のミネソタ州とノースダコタ州を舞台にする。ノースダコタ州スターク郡の保安官で農場主のロイ・ティルマンは、最初の妻リンダを虐待して殺した後、二番目の妻であったナディーンを虐待するも逃げられる。10年後、ナディーンは名をドロシー(ドット)と変え、ミネソタ州スカンディアで自動車販売代理店店長のウェインと結婚し娘スコッティをもうけている。執着するロイは、呪いにより数百年生きる犯罪者のマンチを雇いドットを誘拐させるも、ドットは優れた戦闘能力で闘い、マンチに傷を負わせて相棒を殺し、ノースダコタ州警察のウィットを救ったのちに逃亡する。支払いを拒まれたマンチはロイに怒りを向ける。ロイは息子ゲイターにドットの家を襲撃させるも失敗し、家は焼け落ちる。ドットの誘拐事件を調べるミネソタ州の保安官代理インディラに、ロイを捜査するFBIが接触する。ウェインの母で大手債権回収業者のロレインは、もともと気に入らなかったドットを精神病棟に強制入院させるもドットは逃亡する。ロレインはドットを探して来たロイを追い返し、仕返しに銀行買収を妨害される。報復にロイの保安官選挙を妨害させた弁護士は殺される。ドットはロイに捕まる。ロレインは雇ったインディラからドットがロイに虐待されたことを知らされて同情的になり、大統領を動かしてロイの農場に強制捜査を入れようとするも、ロイは反政府的な同志を募って籠城する。マンチはゲイターの目を潰した後、逃亡したドットを助ける。FBIと警察がロイの農場に入り、ロイはウィットを殺すも逮捕される。
1年後、ロイは服役し、ロレインは刑務所でロイが苦痛を味わうよう計らう。マンチはドットに与えられた傷の借りを返そうとするも、ドットの家族と食事を共にすることになる。
Wikipedia(ファーゴ (テレビドラマ))
感想・その他
このドラマには、典型的な“悪徳保安官”として登場するロイという男がいます。地元の権力を笠に着てやりたい放題、表面上は法を守る顔をしながら、裏では脅しや暴力、汚職まみれ。正義感の強い主人公・ドロシーにとっては、まさに立ちはだかる巨大な壁のような存在です。そんなロイも物語の終盤、ついにその悪行が明るみに出て投獄されることになるのですが、視聴者としては「それだけ?」という気持ちが拭えません。これまで散々人を痛めつけてきた悪党が、法の裁きだけで済まされるのか――そんなやり場のない怒りやモヤモヤを、見事に代弁してくれたのが、ドロシーの義母・ロレインです。
ロレインは、上流階級に生まれ育った女性で、お金も権力も人脈も持ち合わせた一種の“大物”。当初は、息子の妻であるドロシーのことを、どこか軽んじ、疎ましく思っていた節がありました。けれど、ドロシーの抱える深い秘密と、そのうえで彼女が懸命に立ち向かっている姿を知るにつれ、ロレインの態度は一変します。表立っては何も語らないものの、その影では確実にドロシーを支える「最強の味方」へと変貌を遂げるのです。
ロレインは、その持てる資金力と影響力を駆使し、投獄されたロイに対して“死なない程度に地獄を見せてやれ”とばかりの報復を手配。ロイにしてみれば、これまで築いてきた裏の人脈すらも通じず、誰が手を引いているのか分からない恐怖に包まれていきます。結果、鉄格子の中で「何が起こるのか」とおびえる彼の表情は、あれほど強気だった男の末路として、実に皮肉で痛快なものでした。おそらく私だけでなく、多くの視聴者が、ロイのその不安げな顔を見て「ざまあみろ」と胸のすく思いをしたことでしょう。

この悪徳保安官ロイを演じているのが、俳優ジョン・ハム。端正な顔立ちと堂々とした佇まいで、『マッドメン』のドン・ドレイパー役などで知られる名優ですが、今回の役ではその魅力がまさかの“悪の権化”として発揮されています。そして、ちょっとした裏話もあります。Wikipediaによると、ハムは大学時代に“ジーンズに火をつけ、顔を地面に押し付け、腎臓をオールで殴る”という暴力沙汰を起こしていた過去があるとのこと。それを知ってしまうと、思わず「ロイそのものじゃん…」とツッコミたくなるような奇妙な符合を感じてしまいます。もちろん演技とは関係ない話ですが、妙なリアリティが生まれてしまうのが皮肉なところです。
一方で、ドロシーの義母ロレインを演じているのが、ジェニファー・ジェイソン・リー。彼女は1986年の映画『ヒッチャー』で、無実の主人公と共に逃げる羽目になるドライブインのウエイトレス役を演じており、どこか“巻き込まれる女性”というイメージが強かった印象です。しかし、このドラマでは一転して冷静沈着、したたかで気品のある女性を見事に演じており、その変貌ぶりにはベテラン女優としての深みを感じさせられます。
ドロシーという主人公を取り巻く人間関係、そして正義と悪の微妙な境界線――ドラマ全体としても濃厚な人間ドラマに仕上がっていますが、その中でもロレインとロイのやり取りは、まさに“社会的制裁”と“因果応報”の象徴のような出来事として、深く印象に残りました。正義は必ずしも法の中だけで成されるものではない――そんな重みを感じる展開でした。
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