酒井聡平著『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』を読んだ感想

2024年1月15日月曜日

ノンフィクション 読書

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私的評価

酒井聡平著『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』を図書館で借りて読みました。

この本の舞台となった硫黄島は、太平洋戦争末期(1945年2月~)に日本軍が組織的な戦闘をした約一か月に及ぶ激戦地でした。強大な火力を持つアメリカ軍に対しに、日本軍も激しい抵抗をみせ、両軍ともに多大な損害を出しました。最終的にはアメリカ軍が制圧し、硫黄島陥落により日本本土爆撃が本格的になりました。
硫黄島では日本の戦死者2万人のうち、今なお1万人の遺骨が行方不明のまま。著者は北海道新聞の記者で、硫黄島に取り憑かれたかのような執念を持って、その未帰還の遺骨の行方を調査すると共に、硫黄島の戦後から現在まで続く戦禍にも触れられています。
筆者の熱い思いがヒシヒシと胸に迫る素晴らしいノンフィクションでした。一気読み間違いなしです。
★★★★★

『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』とは

単行本として講談社より、2023年07月27日に出版されました。
内容説明
なぜ日本兵1万人が消えたままなのか?
滑走路下にいるのか、それとも……
民間人の上陸が原則禁止された硫黄島に4度上陸し、
日米の機密文書も徹底調査。
新聞記者が執念でたどりついた「真実」。

僕は、硫黄島発の電報を受けた側にいた父島の兵士の孫だった。
『祖父の戦友とも言える戦没者の遺骨を本土に帰したい』
13年前に一念発起し、政府派遣の遺骨収集団への参加を模索し続け、ようやく参加が認められたのだった。
僕の心には、あの電報があった。
『友軍ハ地下ニ在リ』
硫黄島の兵士たちは今も地下にいて、本土からの迎えを待っているのだ。
電報を信じ、地を這うように玉砕の島の土を掘りまくった。
結果、僕はこれまでにどの記者も挑まなかった謎の解明に、執念を燃やすことになった。
その謎とは――。
戦没者2万人のうち、今なお1万人が見つからないミステリーだ」――「プロローグ」より

目次
プロローグ 「硫黄島 連絡絶ゆ」
第1章 ルポ初上陸――取材撮影不可の遺骨捜索を見た
第2章 父島兵士の孫が硫黄島に渡るまで
第3章 滑走路下遺骨残存説――地下16メートルの真実
第4章 情報公開請求で暴いた硫黄島戦後史
第5章 硫黄島「核密約」と消えた兵士たち
第6章 戦没者遺児との別れ、そして再上陸へ
第7章 硫黄島の元陸軍伍長「令和の証言」
第8章 硫黄島ノ皆サン サヨウナラ
エピローグ 「陛下、お尋ね申し上げます」

著者等紹介
酒井聡平(サカイ ソウヘイ)
北海道新聞記者。土曜・日曜は、戦争などの歴史を取材、発信する自称「旧聞記者」として活動する。1976年生まれ、北海道出身。2023年2月まで5年間、東京支社編集局報道センターに所属し、戦没者遺骨収集事業を所管する厚生労働省や東京五輪、皇室報道などを担当した。硫黄島には計4回渡り、このうち3回は政府派遣の硫黄島戦没者遺骨収集団のボランティアとして渡島した。取材成果はTwitter(@Iwojima2020)などでも発信している。北海道ノンフィクション集団会員。北海道岩内郡岩内町在住。本書が初の著書となる。

紀伊國屋書店

感想・その他

本書からの抜粋
「2週間の捜索活動で発見された遺骨は、同行した専門員の鑑定で14体と判定された。遺骨は個体別に白い袋に納められ、宿舎の安置室に運ばれた。本土への帰還日が近づくと、遺骨は箱に納められ、骨箱を本土まで抱きかかえて運ぶ団員14人が選抜された。僕はその一人となった。
託された骨箱は遺骨の重さを含めても1キログラムほど。近年、硫黄島で見つかる遺骨は小さな「骨片」が大半だ。風化の進行が捜索の壁になっている。実際に骨箱を持って感じたのは物理的な軽さではなく、戦後70年の歳月が意味する重さだった。島は現在、全域が自衛隊の管理下にある。収集団帰還日。輸送機が待機する滑走路付近には、制服姿の在島隊員が約200メートルにわたり整列した。団員によって輸送機に運ばれ る戦没者遺骨に「ご苦労様でした」と言うように一斉に敬礼した。帰路の輸送機には団員だけでなく、骨箱の数だけ座席が用意された。戦没者にとっては七十数年ぶりの帰還だ。
そうした対応は、遺骨帰還に協力する自衛隊も同じだった。雨天下で入間基地の滑走路に降り立った際、出迎えたのは「帰還兵」が雨で濡れないように傘を手に待機していた隊員たちだった。儀杖隊がラッパで「悲しみの譜」を演奏し、敬意を表した。日が暮れる中、一行は厚労省が用意したバスに乗り、都内のホテルに向かった。前日まで過ごした島の夜は漆黒と呼べるほどの暗さだった。高層ビルが立ち並ぶ本土の夜景はまぶしかった。ある団員は、そんな景色を見せたいと膝の上の骨箱を車窓の高さまで抱え上げていた。僕もそれに倣った。日本の発展ぶりを見て帰還兵たちはきっと驚いたに違いないと、僕は思った。」

硫黄島に送られ、そして命を落とした日本兵たち――その多くが30代から40代の、家庭を持つ男性たちだったそうです。家には、愛する妻や子どもたちが待っていたはずです。ある者は父として、ある者は夫として、ごく普通の穏やかな生活を望んでいたことでしょう。しかし、時代のうねりに巻き込まれ、家族のもとへ帰ることすら叶わぬまま、硫黄島という苛烈な戦場で命を落とすことになりました。その無念さ、心残りは、想像するだけで胸が締め付けられます。

彼らが最後に見たのは、炎に包まれた空か、仲間の死か、それとも空しく散る己の命だったのか。いずれにしても、どれほど祖国を、そして家族を思いながら最期の時を迎えたかは、我々の想像を遥かに超えるものでしょう。

それから長い年月が流れ、ようやく今、遺骨収集が行われるようになり、見つかったご遺骨はひとつの「骨」として無機質に扱われるのではなく、“一人の人間”として、日本という国に丁重に帰されている。その事実を知ったとき、胸にこみ上げるものがありました。

名前も分からず、身元の判明も困難なご遺骨も多い中で、それでも「誰かの大切な家族」であったことに変わりはない。そうした思いを込め、丁寧に迎え入れられる姿には、日本という国がようやく戦没者一人ひとりと向き合おうとしている姿勢が感じられます。それは、単なる形式ではなく、戦後を生きる私たち一人ひとりの心に刻まれるべき尊い営みだと感じました。

硫黄島で命を落とした彼らは、私たちが今こうして平和な暮らしを送っている日本を、命を懸けて守ろうとした人たちです。その思いに、私たちはどう応えるべきか。その一つの形が、遺骨を“帰してあげる”という行為であり、彼らの存在を“忘れないこと”なのではないかと思います。

この事実を知ったとき、私は涙が止まりませんでした。
時を越えてようやく帰ることができた英霊たちに、心から「おかえりなさい」と言いたい気持ちでいっぱいです。



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1964年生まれ。糖尿病を患ってから、自転車と歩くことを趣味にしています。毎日クスリ飲んでます。

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