鈴木壮一著『ロシア敗れたり―日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち』を読んだ感想

2024年11月20日水曜日

ノンフィクション 読書

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私的評価

鈴木壮一著『ロシア敗れたり―日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち』を図書館で借りて読みました。

本書は、司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』に記された内容――「小説でありながら史実書でもある」とされる作品――の虚構を徹底的に暴き、その内容を厳しく否定しています。例えば、『坂の上の雲』では第三軍の乃木将軍とその参謀長・伊地知少将を無能とし、満洲軍総参謀長・児玉源太郎を絶賛しています。しかし、鈴木氏は『坂の上の雲』が生んだ「誤った認識」が日本を呪縛していると指摘しています。

実際、私もかつて『坂の上の雲』を読んで感銘を受け、映画『二百三高地』で仲代達矢が演じた乃木将軍の姿しか知らなかったこともあり、小説の内容をすべて鵜呑みにしていました。しかし、この本を読むうちに、乃木将軍は確かに「戦下手」だったかもしれませんが、「愚将」ではなかったのだと考え直すようになりました。

…とはいえ、そんな他人の意見に影響を受けやすい自分がいるのも事実ですが。

★★★★☆

『ロシア敗れたり―日本を呪縛する「坂の上の雲」という過ち』とは

鈴木壮一著、2023年9月23日に毎日ワンズから発刊されました。2024年10月10日に同じく毎日ワンズより『ロシア敗れたり(親書版)「坂の上の雲」という呪縛を解く!』が発刊されました。

内容説明
吹けば飛ぶような小国がなぜ、世界最強のロシア陸軍を打ち破り、無敵のロシア海軍を全滅させることができたのか……
幕末維新史の定説を覆した大ヒット作『明治維新の正体』の著者が、『坂の上の雲』という過ちに挑み、日露戦争の真実に迫る、衝撃の書き下ろし最新刊!

目次
第1章 恐ロ病が生んだ嫌ロ感情
第2章 義和団事変
第3章 満州を占領したロシア軍の脅威
第4章 開戦への道
第5章 日露戦争の緒戦
第6章 海軍が旅順占領を要請
第7章 旅順第一回総攻撃の失敗
第8章 旅順第二回総攻撃
第9章 旅順攻略
第10章 遼陽会戦
第11章 沙河会戦
第12章 奉天会戦
第13章 東郷平八郎の日本海海戦
終章 乃木希典の自刃

著者等紹介
鈴木壮一[スズキソウイチイ]
近代史研究家。昭和23年生まれ。昭和46年東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行にて審査、産業調査、融資、資金業務などに携わる。とくに企業審査、経済・産業調査に詳しく、今も的確な分析力には定評がある。平成13年日本興業銀行を退社し、以後歴史研究に専念、現在は「幕末史を見直す会」代表として、現代政治経済と歴史の融合的な研究や執筆活動などを行っている。著書に、『明治維新の正体』(毎日ワンズ)、『日露戦争と日本人』(かんき出版)、『日本征服を狙ったアメリカのオレンジ計画と大正天皇』(かんき出版)、『アメリカの罠に嵌った太平洋戦争』(自由社)、『陸軍の横暴と闘った西園寺公望の失意』(勉誠出版)、『昭和の宰相近衛文麿の悲劇』(勉誠出版)など。

毎日ワンズ

感想・その他

本書を読み終えたあと、改めて乃木希典についてもっと知りたくなり、Wikipediaで彼の項目を確認してみました。そこには、教科書や通り一遍の歴史書では伝わってこない、複雑で多面的な人物像が描かれていました。

戦時中、旅順攻囲戦において大量の兵士を死なせたことで、乃木将軍は世論の激しい批判にさらされます。ついには自宅に石を投げ込まれるという事態にまで発展したといいます。軍人としての判断が問われ、世間からは「愚将」との烙印を押された面もあったようです。

しかし一方で、彼が攻略した旅順要塞は、ロシア側が「いかなる大敵が来ても3年は持ちこたえる」と自信を持っていた堅固な要塞でした。それを半年余りで落としたという事実は、軍事的にも決して無視できるものではありません。さらに、二人の実子を戦場で失うという深い私的犠牲を背負った彼の姿は、多くの国民の胸を打ちました。凱旋の際には、他の将軍たちとは一線を画すほどの盛大な歓迎を受けたと記されています。

こうして乃木将軍に向けられた世の評価が、短期間で手のひらを返したかのように一変していく様子を見ると、「人心とは、なんと曖昧で、移ろいやすいものか」と、複雑な気持ちにさせられます。理屈や実績だけでは測れない「空気」のようなものが、時代の評価を大きく左右するのだということを改めて感じました。

また、Wikipediaの記事を読み進めるうちに、たとえ戦術的に稚拙な部分があったとしても、乃木希典という人物が、いかに誠実で高潔な人格者であったかがひしひしと伝わってきます。潔さ、忠誠心、自己犠牲の精神――それらは時代を越えて、私たちの心に何かを訴えかけてくるようです。まだご覧になっていない方には、ぜひ一度その記事を読んでみることをおすすめしたいと思います。

そして最後に思い出されるのが、映画『二百三高地』のラストシーン。明治天皇の御前で、乃木将軍が自筆の復命書を奉読する場面です。静謐な空気の中に、国家と命運を共にした男の誇りと悲しみがにじみ出るあの場面は、何度見ても胸を締めつけられる思いがします。言葉少なに語られる乃木の魂、その姿勢こそが、戦争の悲劇と同時に人間の気高さを象徴しているように思えてなりません。



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1964年生まれ。糖尿病を患ってから、自転車と歩くことを趣味にしています。毎日クスリ飲んでます。

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