私的評価
佐木隆三著『身分帳』を図書館で借りて読みました。この本を手に取ったきっかけは、西川美和監督の映画『すばらしき世界』を観たことでした。映画自体は、私の中で満点の星5つをつけたいほどの傑作で、強く心に残る素晴らしい作品でした。そんな映画の原作にもぜひ触れてみたいと思い、読んでみることにしたわけです。
読んでみると、物語の大まかな流れやエピソードは映画とほぼ重なっているものの、印象として大きく異なったのが主人公の人物像でした。本の主人公である山川一と、映画の主人公・三上正夫では、キャラクターの持つ雰囲気や生き様に違いが感じられます。個人的には、山川の方がどちらかと言えば生きづらい世の中でも、それなりに日々を楽しみ謳歌しているように思えました。
山川は手先が器用で、生活の中で巧みに立ち回る一方、生き方そのものはどこか不器用で拙さも感じられます。特に「身分帳」に記された彼の記録や、さまざまな規則に関する描写は非常に興味深く、当時の社会の厳しさや複雑さが伝わってきました。
この作品を通じて、映画とはまた違った角度から人間の弱さや強さ、生きることの難しさを考えさせられ、読後の余韻がとても深かったです。改めて、原作と映画の双方を味わうことの面白さを実感しました。
★★★★☆
『身分帳』とは
内容紹介
人生の大半を獄中で過ごした受刑10犯の男が極寒の刑務所から満期で出所した。身寄りのない無骨者が、人生を再スタートしようと東京に出て、職探しを始めるが、世間のルールに従うことができず衝突と挫折の連続に戸惑う―西川美和監督の映画「すばらしき世界」原案になった傑作ノンフィクション・ノベル。
著者紹介
佐木隆三[サキリュウゾウ]
1937年、朝鮮咸鏡北道生まれ。1963年、「ジャンケンポン協定」で第3回新日本文学賞、76年、「復讐するは我にあり」で第74回直木賞を受賞、映画化もされた。91年、本作「身分帳」で第2回伊藤整文学賞を受賞。
紀伊國屋書店
感想・その他
この文庫版には「行路病死人」っていうお話も入っていて、そこでは山川一のモデルになった田村明義さん(1990年に亡くなった方)の死後について触れられているんです。ところで「行旅死亡人」って聞いたことありますか?これは日本の法律用語で、身元がわからなくて遺体の引き取り手もいない人のことを指すんです。いわゆる“行き倒れ”の人の身分を示す言葉なんですが、「行路」って書かれちゃうことが多いけど、正しくは「行旅」なんだそうです。ちょっとした豆知識ですね。
この「行路病死人」を読むと、田村さんという方の人柄や生き方がすごく伝わってきて、なんだか胸が熱くなりました。こういう社会の片隅にある現実を忘れちゃいけないなと思います。
ちなみに佐木隆三さんといえば、あの有名な『復讐するは我にあり』の作者でもありますよね。私はまだその本も映画も観てないんですけど、戦後最悪とも言われる西口彰事件が題材らしく、犯人の軌跡や人間像に迫った内容みたいで、すごく興味があります。時間があったらぜひ読んでみたいですね。
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