私的評価
フジテレビ制作のスペシャルドラマ『北の国から 2002遺言』を観ました。DVDでの視聴です。
北の国からシリーズを一気観した訳ですが、総時間はなんと約40時間。それもとうとうフィナーレです。しかし、個人的見解を書かせてもらえば、この「2002遺言」は要らなかったかな。そんな気がします。
★★★☆☆
作品概要
プロデューサーは中村敏夫、杉田成道。原作・脚本は倉本聰。
出演は田中邦衛、吉岡秀隆、中嶋朋子、宮沢りえ、内田有紀、唐十郎、岸谷五朗ほか。
2002年9月にフジテレビ系列で放送されたテレビドラマです。前編・後編の2回で放送されました。視聴率はともに30%を超えました。中畑のおばさんことみずえのがんが再発し、五郎は家づくりに励む。結との結婚を決めた純が取った決断とは…。
作品の紹介・あらすじ
草太(岩城滉一)が事故で亡くなってから4年が経った。草太から引き継いだ牧場の倒産で、純(吉岡秀隆)と正吉(中沢佳仁)は借金を抱え富良野から出て行った。
螢は3歳になる息子・快(西村成忠)と富良野で暮らしていた。五郎(田中邦衛)にとっては孫の快が唯一の生きがいであった。ある日、和夫(地井武男)の元に娘のすみえ(中島ひろ子)が帰って来た。結婚が決まったというがすでにお腹には子供がいるらしい。すみえの結婚相手の清水正彦(柳葉敏郎)は、五郎が廃棄物で作った雪子の家を見て感動し、自分とすみえの新居を建てて欲しいと頼み込み、五郎は新居作りに着手することになった。そんな時、久し振りにシュウ(宮沢りえ)が五郎を訪ね、近く結婚して神戸に行くことを話し、純にあてた手紙を置いて行った。その時、五郎の下腹部は急に痛みだし、螢に言われ続けた精密検査を受ける決心をする。純はシュウの手紙を、羅臼という漁師町で受け取った。廃棄処理業をしながら暮らす純は、ある日コンビニの店員・高村結(内田有紀)と出会い、魅かれていく。しかししばらくして純は、結が人妻で、その義父・吾平(唐十郎)がトドと呼ばれる気性の激しい男だと聞かされた。ある日螢は、病院でみずえ(清水まゆみ)の姿を見つけた。そしてその時、病院の駐車場でみずえを送り届けて戻った和夫の手は小さく震えていた…。
『北の国から 2002遺言』(前編)BSフジ
螢(中嶋朋子)の勤める病院にみずえ(清水まゆみ)が入院してきた。肝臓に癌が転移しておりすでに手の施しようがなかった。その日、一緒に新居作りをしていた新吉(ガッツ石松)が「遺言を書いているか?」と切り出してきた。新吉のすすめもあり、五郎は元中学校の校長の山下(杉浦直樹)に習い、遺言を書いてみることにした。
ひょっこりトド(唐十郎)が五郎を訪ねてやって来た。二人は、仕事や子供のことを語りあったが、五郎は最後までトドの素性を知らなかった。
そして純(吉岡秀隆)は、流氷を親父さんに見せるようトドに言い渡された。羅臼までの交通手段と同封された費用を受け取った五郎は、この冬の羅臼行きを決めた。その頃、結(内田有紀)の夫・弘(岸谷五朗)が町に戻って来た。呼び出され叩きのめされた純。純は自分の決心を告げに弘のもとに乗り込み、そして結の手には猟銃があった。
流氷が来て、五郎が羅臼にやって来た。純は富良野に帰ろうと思っていること、結のことを打ち明けた。翌朝、純はトドがトド撃ちに行ったまま戻って来ないことを知らされた。漁船での捜索、巡視船も出された。そんな中、純も弘も迎え火を焚いてトドの帰りをひたすら待つのだった。
時をほぼ同じくして、富良野からみずえの死の報が入り、純は2年振りに富良野に帰ることになった。そして螢の元には正吉(中沢佳仁)からの手紙が届いた。
『北の国から 2002遺言』(後編)BSフジ
感想・その他
金なんか望むな。幸せだけを見ろ。
ここには、なんもないが自然だけはある。
自然は、お前らを死なない程度には、充分毎年食わしてくれる。
自然から頂戴しろ。
そして、謙虚に慎ましく生きろ。
それが父さんの、お前らへの遺言だ。
五郎さんが書いた遺言。
何の飾り気もない、でもそれだけに心に深く響く言葉でした。連続ドラマの時代からずっと、倉本聰さんが描きたかった「人間と自然との距離感」、そして「本当の豊かさとは何か」というテーマが、ここに凝縮されていたように感じます。
「謙虚に慎ましく」。それができれば、人は金や物に縛られずに済む。それができれば、社会の競争や虚栄心、嫉妬、焦燥といった苦しみからも、少しは解放されるのかもしれない。でも、分かってはいても、それがなかなかできないのが人間です。だからこそ、この遺言は美しい理想であると同時に、厳しい現実への静かな挑戦状でもあるように思いました。
そんな静謐で哲学的な場面とは対照的に、今作で一番笑ったのが、あのシーンです。五郎さんが羅臼まで純を訪ねに来て、番屋小屋で一夜を明かした翌朝。寒風の吹きすさぶ海辺、冷たい朝。番屋小屋の前で、五郎さんが立小便。まるで何気ない日常の一コマですが、そこに現れたのが、純の恋人・結(内田有紀)。
気配を察した五郎さん、あわてて振り返りながらナニを収納(笑)。そのドタバタに、思わず笑ってしまいました。小屋に戻った五郎さんの肌色の股引が、小便でびしょ濡れになっているというオチ付きで、あの緊張感のない間が絶妙です。
こうした、何でもないようなシーンにこそ『北の国から』らしさが溢れていると思います。笑いと哀しみ、人生の苦さと滑稽さ――それらが同居していて、まるで現実の人生そのもののよう。だからこそ、このドラマは何十年にもわたって多くの人の心に残り続けたのでしょう。
最終章にして、やっぱり五郎さんは五郎さんでした。泥くさくて、不器用で、でもまっすぐで、何より愛おしい存在。きっとあの遺言も、きれいごとではなく、五郎さんが泥にまみれて生きてきたからこそ言える、重みのある言葉だったのでしょう。
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