私的評価
映画『ヒットマン:インポッシブル』を観ました。Amazonプライムビデオでの鑑賞です。
なかなか観る機会の少ないハンガリー映画です。物語の中で、「なぜ車椅子の元消防士が凄腕のヒットマンになれたのか?」など、観ている最中に感じるさまざまな疑問が、最後の最後で明かされ、一気にスッキリと腑に落ちる展開になります。ただし、この映画をいわゆる“アクション映画”として期待して観ると、肩透かしを食らうかもしれません。 激しい銃撃戦や派手なカーチェイスといった要素はほとんどなく、むしろ人間ドラマや内面の葛藤を丁寧に描いた作品です。
主人公の車椅子の青年・ゾリカも、とてもリアルな存在感があり、調べてみたところ、彼は実際に車椅子で生活している俳優のようです。その自然な演技や表情からも、本人の経験がにじみ出ており、物語に深みを与えていました。
★★★★☆
作品概要
監督・脚本はアッティラ・ティル。製作はユディ・スタルタール。
主演はサボチ・チューローチ、その他出演者にゾルタン・フェンベシ、アダム・ファケテ、モーニカ・バルシャイほか。
2016年制作のハンバリー映画で、アカデミー賞外国語映画賞ハンガリー代表作品です。不慮の事故で両足が不自由になった元消防士の、死を覚悟したアツイ戦いを描いたヒットマン・アクションとなります。
作品の紹介・あらすじ
解説
車椅子に乗った凄腕の殺し屋と、彼の仕事を手伝うことになった障害者の青年2人の運命を描いたハンガリー製クライムドラマ。障害者施設で車椅子生活を送る青年ゾリカと親友バルバは、3年前に事故で両足が不自由になった元消防士のルパゾフと知り合う。ルパゾフは自身が障害者であることを利用し、車椅子の殺し屋としてギャングから仕事を請け負っていた。ゾリカとバルバはルパゾフの仕事を手伝うようになるが、秘密が漏れることを案じた組織が、ルパゾフに2人の殺害を命じ……。
映画.com
感想・その他
まずタイトルを見て、「え?コメディ?パロディ?」と首をかしげたくなるようなネーミングですが、実はこれはハンガリー映画で、原題は Tiszta szívvel。直訳すると「清らかな心で」「心を込めて」といった意味合いのようです。英題は Kills on Wheels――こちらは直球で「車椅子の殺し屋」といった感じで、作品の内容をよく捉えていると思います。どちらのタイトルも、この映画が持つ深いテーマ性や独特なユーモア、そして人間ドラマの要素をうまく反映しているのに対し、邦題の『ヒットマン:インポッシブル』はやや残念な印象を受けました。明らかに『ミッション:インポッシブル』を意識して付けられた感が否めず、作品の本質からはかけ離れているように思います。おそらくDVD向けにインパクトを狙って名付けられたのでしょうが、そのせいで映画そのものを軽く見せてしまっている気がしてなりません。ちなみに日本では劇場未公開。だからこそ、このタイトルが先行してしまうのがもったいないのです。
さて、肝心の中身ですが――これがとても良い映画でした。登場するのは、身体に障害を抱えた若者たち。車椅子に乗った彼らが、ある日「殺し屋」と名乗る謎の男と出会い、思いもよらぬ非日常へと巻き込まれていく、という物語です。一見すると突飛な設定のようですが、その中には障害者たちが抱える葛藤や社会とのズレ、そして内に秘めた夢や怒り、ユーモアが詰まっています。
映画全体には、彼らのやり切れなさや、社会から見放されたような感覚がじわじわと漂っています。しかし決して暗く沈むばかりではありません。主人公たち三人――青年たちとその“殺し屋”の男には、それぞれの弱さと強さがあり、時に笑い、時に衝突しながらも、懸命に日々を生き抜こうとする姿が描かれています。特に、彼らのちょっとしたユーモアや茶目っ気が、この映画に人間らしい温もりを加えています。悲しみや重さの中にも、確かに「生きる力」があるのです。
そしてラスト。それまで散りばめられていた違和感や謎が一気に回収され、「ああ、そうだったんだ!」と膝を打つような種明かしが待っています。真相が明かされた瞬間、観る者は驚きとともに、どこか救われるような感覚に包まれることでしょう。肩の力がふっと抜けるような、やさしい余韻が残るエンディングでした。
外見や立場ではなく、心の中にある“自由”や“希望”をどう持ち続けるか。この映画はそんな問いを、ユニークな切り口と静かな力強さで投げかけてくる作品です。邦題の印象に惑わされず、多くの人に観てほしい一本です。
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