私的評価
麻田雅文著『日ソ戦争 帝国日本最後の戦い』を図書館で借りて読みました。なにか、日本人としては読むことに抵抗を感じてしまうような、重く厳しい内容です。1945年8月、突如としてソ連が対日参戦したあの歴史的瞬間から、日ソ戦争が終結するまでの過程が、綿密な史料調査に基づいて詳細に描かれています。著者は数多くの一次資料や証言を丹念に掘り起こし、歴史の裏側に埋もれていた事実を丁寧に再構成しています。
しかしながら、その徹底した資料主義ゆえにか、“読み物”としての娯楽性や物語性にはやや乏しく、読んでいて引き込まれるような面白さはあまり感じられませんでした。学術的価値は高いものの、一般読者が興味を持ち続ける内容ではありませんでした。
とはいえ、曖昧な記憶や教科書レベルの知識しか持っていなかった自分にとっては、改めて日ソ戦争の現実を知る良い機会となりました。日本の終戦におけるソ連の関与を正確に把握するには、避けて通れない一冊だとも感じました。
★★★☆☆
『日ソ戦争 帝国日本最後の戦い』とは
今村翔吾著、2024年4月に中公新書から発刊されました。1945年8月8日から9月上旬まで満洲・朝鮮半島・南樺太・千島列島で行われた第2次世界大戦最後の日・ソ間の全面戦争を、新史料も詳細に調べ、戦闘の実態を開戦から終戦までの全貌が描かれています。出版社内容情報
日ソ戦争とは、1945年8月8日から9月上旬まで満洲・朝鮮半島・南樺太・千島列島で行われた第2次世界大戦最後の全面戦争である。短期間ながら両軍の参加兵力は200万人を超え、玉音放送後にソ連軍が侵攻してくるなど、戦後を見据えた戦争でもあった。これまでソ連による中立条約破棄、非人道的な戦闘など断片的には知られてきたが、本書は新史料を駆使し、米国によるソ連への参戦要請から、満洲など各所での戦闘の実態、終戦までの全貌を描く。
目次
第1章 開戦までの国家戦略―日米ソの角逐(戦争を演出したアメリカ―大統領と米軍の思惑;打ち砕かれた日本の希望―ソ連のリアリズム)
第2章 満洲の蹂躙、関東軍の壊滅(開戦までの道程―日ソの作戦計画と動員;ソ連軍の侵攻―八月九日未明からの一ヵ月;在満日本人の苦難;北緯三八度線までの占領へ)
第3章 南樺太と千島列島への侵攻(国内最後の地上戦―南樺太;日本の最北端での激戦―占守島;岐路にあった北海道と北方領土;日ソ戦争の犠牲者たち)
第4章 日本の復讐を恐れたスターリン(対日包囲網の形成;シベリア抑留と物資搬出)
著者等紹介
麻田雅文[アサダマサフミ]
1980(昭和55)年東京都生まれ。2003年学習院大学文学部史学科卒業。10年北海道大学大学院文学研究科博士課程単位取得後退学。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員、ジョージ・ワシントン大学客員研究員などを経て、15年より岩手大学人文社会科学部准教授。専攻は近現代の日中露関係史。著書『中東鉄道経営史―ロシアと「満洲」1896‐1935』(名古屋大学出版会、2012年/第8回樫山純三賞受賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
紀伊國屋書店
感想・その他
深く考えさせられました。1945年8月15日をもってすべてが終わったわけではなく、むしろその後も戦火は続き、多くの日本人が戦い、倒れ、捕らわれたという事実に、強い衝撃を受けました。本書では、終戦直前から日ソ戦争終結までの過程が、膨大な一次資料と緻密な分析により克明に描かれています。なかでも印象的だったのは、ソ連参戦の背景にある各国の思惑です。アメリカが日本を早期に降伏させるため、ソ連に対日参戦を強く働きかけたこと。そして、その要請を自国に有利に使い、アメリカから対独戦支援を引き出しながら、タイミングを見計らって参戦を決断したスターリンの老獪な外交戦略。戦局を見極めた上での、冷徹かつ計算された一手でした。
一方で、日本政府は最後までソ連に対して終戦の仲介を期待し続けていた。まさに情報戦の敗北であり、現実を直視できなかった日本の甘さが、満洲・樺太・千島といった地域における悲劇を招いたことは否定できません。
ソ連は日本の敗戦が濃厚となったこの時期を見計らい、不可侵条約を一方的に破棄して対日宣戦布告を行い、瞬く間に広大な領土を占領しました。その行為には火事場泥棒的な印象を拭えず、民間人を含む多くの犠牲者を出したその軍事行動には、怒りすら覚えます。しかし同時に、本書は私たちに、こうした行動が国際政治の冷酷な現実であり、決して「悪の帝国」ソ連だけが行ったものではないという視点も与えてくれます。ふと立ち止まれば、日本軍自身もまた、中国大陸などで同じような行為を繰り返していたことを思い出さざるを得ません。
麻田氏の筆致は冷静かつ客観的で、感情をあおることなく史実を積み上げていきます。そのため“読み物”としてのエンターテインメント性は控えめかもしれませんが、歴史を正確に理解するうえで非常に誠実で信頼の置ける一冊です。時に重く、苦しい読書ではありました。
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