私的評価
信友直子著『ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん』を図書館で借りて読みました。ねじめ正一さんの『認知の母にキッスされ』が、母と子の介護日記だとすれば、こちらの『ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん』は、夫婦の介護物語です。自分で介護することを決心した著者の90歳代のお父さんの物語です。とにかくこのお父さんが素晴らしいし、格好いい。自分もこんな夫であり父親でありたいと思いました。
★★★★☆
『ぼけますから、よろしくお願いします。 おかえりお母さん』とは
出版社は新潮社、発売日は2022年3月。内容紹介
老々介護のリアルを娘の視点で綴った話題作、待望の続編!母が認知症診断を受けて4年半、介護サービス利用が始まってほっとしたのも束の間、東京で働く著者に広島で暮らす父から電話が。「おっ母がおかしい」。
救急搬送され、そのまま脳梗塞で入院した妻に、98歳になった父は変わらぬ愛情を注ぐが……。
遠距離介護を続ける娘が時に戸惑い、時に胸を打たれながら見届けた夫婦の絆。
第一章 母の異変
両親の姿をありのままに/母の異変に気づいた電話/母をいたわる父の度量/
認知症問診テストでほぼ全問正解した母/祖母に対する後悔の念/
大好きだった書道への情熱もくじいた異変/認知症診断でも父の軽妙な返しで笑顔に戻る母/
信友家の父と娘の不思議な連帯感/母の認知症で気づいた「父は案外『いい男』」/……
第二章 認知症と向き合う
にじむ親心が切なくて/失態恐れて人目を避ける/心の内をさらけ出した母/
空気を和ませた父の返事/コツのセリフは「おっ母、こりゃどうすりゃええんかの」/
家計簿に残る母の矜持/親心につけ込んだ悪人を絶対許せない! /
自分の城での「籠城」は娘への思いやり/老夫婦二人暮らしはいよいよ限界に/……
第三章 我が家に介護サービスがやって来た!
好青年カメラマンの来訪にいろめきたつ両親/え? 河合くんに聞くん?/
初めて聞いた父の本音に胸をつかれる/父は介護サービスを受ける決心をしたけれど/
背中を押してくれたかかりつけ医/95歳父の自信になった要介護認定「非該当」/
きれいも汚いも併せのむ夫婦の絆/ケアマネジャーと好相性にひと安心/……
第四章 家族にしかできないこと
「介護はプロとシェアしなさい」/家族の役割は「母を愛すること」/ご近所の温かさに救われる/
「別人」になっていく姿に揺れた心/娘の「何で? どうして?」を面白がってくれた母/
予期せぬ性教育/20年間、毎週届いた録音テープ/心残りは「一緒の旅行」が叶わなかったこと/
何度も窮地を救ってくれた母の愛/何でも笑いに変える自虐ネタが闘病の支え/……
第五章 介護は、親が命懸けでしてくれる最後の子育て
「お母さん好き」を言葉にして自分にも言い聞かす/父の爆発の裏にあった母への思い/
母と父、揺るぎないバディ/父と「自宅で暮らし続けたい」が望みだった/防げたかもしれない脳梗塞/
私の好きなお母さんが戻ってきた/胃ろうにしてよかったのか?/母と過ごした最期の時/
「社会参加」は社会に甘えること
終章 父といつまでも
101歳の誕生日祝いは母とのデートスポットで/100歳の誕生日に父が流した涙/
昔の父とは「手をつないでいた思い出」ばかり?/減給されても娘の登校に付き合っていた!?/
大切な妻と娘とのささやかな暮らし/父の健康長寿の秘訣は?
新潮社
著者紹介
信友直子[ノブトモ ナオコ]
1961(昭和36)年、広島生れ。映像作家。東京大学文学部卒。2009(平成21)年、自らの乳癌の闘病記録である『おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記』でニューヨークフェスティバル銀賞、ギャラクシー賞奨励賞などを受賞。2018年には、初の劇場公開作として両親の老老介護の記録『ぼけますから、よろしくお願いします。』を発表し、令和元年度文化庁映画賞文化記録映画大賞などを受賞。2022(令和4)年には続編『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~』が公開された。
感想・その他
この本には、前作となる『ぼけますから、よろしくお願いします。』があり、同名のドキュメンタリー映画としても上映されています。そして今回読んだこの作品もまた、同名の続編映画に基づく書籍であり、前作のその後を描いたものです。映像作品でありながら、これほどまでに多くの人の心を打ち、書籍という形でも繰り返し語り継がれていくというのは、それだけこの家族の記録が、現代を生きる私たちにとって深い共感と学びを与えてくれるからでしょう。
本書の中心にあるのは、著者の父と母、そして著者自身の三人で紡がれる“介護の日々”です。中でも強く心を打たれたのは、お父さんの生き様でした。
お父さんが奥様の介護を始めたのは95歳のとき。それだけでも驚くことですが、その後99歳までの4年間、献身的に妻を支え続けました。
奥様の認知症は徐々に進行し、やがて脳梗塞を発症。入退院を繰り返す日々の中でも、お父さんは毎日1時間かけて病院まで面会に通い、穏やかな言葉で奥様を励まし続けました。自分も外出には手押し車が欠かせない状態だったにもかかわらず、「お母さんがいつか家に帰ってくる時のために」と、なんと98歳にして筋トレを始めたというエピソードには、ただただ頭が下がる思いでした。
その姿は、まさに「愛」の体現です。年齢という数字を遥かに超えて、伴侶への深い思いやりと、静かに燃える強さを持った人。著者の言葉を通して語られるお父さんの言動一つひとつが、読み進めるほどに胸に沁みてきて、「格好いい」という言葉以上の敬意と尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。
そして、著者である信友直子さんご自身もまた、映像作家としてだけでなく、ひとりの娘としてご両親と真正面から向き合い、葛藤や悲しみ、そして感謝を余すところなく記録しています。その視点のリアルさが、読者にとっても「自分の親だったら」と思わずにはいられない、強く身近なものとして響いてくるのです。
私はまだ映画は観ていませんが、この本を読んでからというもの、ぜひ映像でもこの家族の姿を観てみたいと思うようになりました。本では言葉で伝えきれなかった表情や声、間の空気などが、より深く伝わってくるに違いありません。
高齢化社会を生きる私たちにとって、この作品は他人事ではなく、いずれ訪れるかもしれない未来への大きな示唆と温かい光を与えてくれる一冊でした。静かだけれど、強くて、優しい──そんな読後感が今も心に残っています。
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