私的評価
映画『グランド・ジョー』を観ました。Amazonプライムビデオでの鑑賞です。
数々の“どうしようもない”映画に出演してきたことで、ある種のネタキャラのように語られることもあるニコラス・ケイジですが、この作品に限っては、間違いなく“良質な部類”に入る一本だと思います。久しぶりに「これぞニコラス・ケイジ!」と感じさせてくれる、渋くて格好良い彼の姿がスクリーンに映し出されています。過剰な演技もなく、力みもなく、どこかくたびれた男の哀愁をまといながらも、芯の強さを漂わせるその演技には、やはり彼は“やるときはやる俳優”だったんだと、改めて感じさせられました。
そして、この映画全体を包み込むのが、アメリカ南部の片田舎を舞台にした、どこか湿っぽくて、くすんだ空気感。舗装が剥がれかけた道路、さびれた木造家屋、埃っぽい空気と、地平線まで続く曇天の空――そうした情景が、映像からじわじわとにじみ出てきて、観る者の感覚に染み込んでくるようでした。あの、どこか怠惰でくすんだ雰囲気が、物語の空気感と見事にマッチしていて、印象に残ります。
ただし、ストーリーの展開には少々じれったさを感じるかもしれません。特に中盤はテンポが遅く、登場人物たちの鬱屈とした感情が堂々巡りするような構成で、正直イライラしてしまう場面もあります。しかし、それでも見続けていくと、クライマックスにはしっかりとカタルシスが用意されており、観終わった後には「観てよかった」と思わせてくれる、そんな映画でした。派手さはありませんが、しっかりと心に残る一本です。
★★★★☆
作品概要
監督はデビッド・ゴードン・グリーン。原作はラリー・ブラウンの小説「JOE」。
脚本はゲイリー・ホーキンズ。
製作はリサ・マスカット、デビッド・ゴードン・グリーンほか。
主演はニコラス・ケイジ、その他出演者にタイ・シェリダン、ゲイリー・ポールターほか。
2013年制作のアメリカのクライム・サスペンス映画です。「スモーキング・ハイ」のデヴィッド・ゴードン・グリーン監督によるドラマで、主演はニコラス・ケイジです。
作品の紹介・あらすじ
解説
ラリー・ブラウンの小説を基に、昔犯罪に手を染めた男と、父親からDVを受けつつも家族を支える少年の交流をつづる人間ドラマ。『スモーキング・ハイ』などのデヴィッド・ゴードン・グリーン監督が、アメリカ南部を舞台に彼らのたどる運命を描き出す。主演は、幅広いジャンルで活躍するオスカー俳優ニコラス・ケイジ。不遇な少年ゲイリーを『MUD マッド』などのタイ・シェリダンが好演し、第70回ベネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した。
あらすじ
アメリカ南部の寂れた田舎町に暮らすジョー(ニコラス・ケイジ)は前科者だが、今はしっかりと働きながら普通の生活を送っていた。ある日、彼は仕事を探しているという15歳の少年ゲイリー(タイ・シェリダン)と出会うが、ゲイリーは飲んだくれの父親の暴力に耐えながら家族の面倒を見ていた。ジョーとゲイリーは一緒に働くうちに、まるで親子のような関係になっていき……。
シネマトゥデイ
感想・その他
この映画で、ある意味“第三の主人公”とも言える存在が、少年の父親ウェイドです。彼は息子に対して日常的に暴力を振るい、さらにはその少年が汗水たらして働いて稼いだわずかな賃金さえも力ずくで巻き上げるという、どうしようもなく救いようのない父親として描かれています。そのウェイドを演じているのが、ゲイリー・ポールターという人物。あまりにリアルで鬼気迫る演技に、「さぞかし名のあるベテラン俳優なのだろう」と思い込んでいたのですが、調べてみて驚きました。なんと彼は演技経験ゼロ、プロの俳優ですらなく、もともとは本物のホームレスだったのです。監督がストリートで彼を見かけて声をかけ、スカウトしたのだそうです。
まさに“地で演じている”とも言えるようなその演技は、見る者の心に強烈なインパクトを残します。彼の存在そのものがスクリーン上で圧倒的なリアリティを放ち、観ているこちらが本気で怒りや嫌悪感を覚えるほど。それは演技という枠を超えた、ある種の“生々しさ”でした。
しかし、この映画の公開を目前にして、ゲイリー・ポールターは再び路上生活に戻り、そしてそのままテキサス州オースティンの川のような貯水池で遺体となって発見されたのです。享年53歳。彼にとって、この映画が最初で最後のスクリーン出演となりました。
その生涯には深い悲しみと哀しさが漂いますが、彼がこの作品に刻んだ存在感と演技は、確かに観た者の記憶に永く残るものでした。合掌。
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