私的評価
磯田道史著『日本史を暴く-戦国の怪物から幕末の闇まで』を図書館で借りて読みました。磯田氏の本はこれまでに何冊か読んでいますが、どの本も内容が非常に興味深く、楽しく読むことができました。この本も例外ではなく、とても面白かったです。特に第1章と第2章は引き込まれるように読めました。一方で、第3章と第4章については、私自身の興味の範囲外だったためか、内容の面白さを十分に感じることができませんでした。
★★★☆☆
『日本史を暴く-戦国の怪物から幕末の闇まで』とは
磯田道史著、2022年11月に中央公論新社より刊行されました。出版社内容情報
知っているつもりの日本史も史料をもとに読みなおせば、新たな面が見えてくる。松永久秀が大悪人とされたのはなぜか、鼠小僧は義賊ではなかった?、最後の女性天皇はいかに譲位したか、孝明天皇の病床記録はなぜ漏れたのか――。戦国、江戸、幕末の驚きの真相が満載。忍者や忠臣蔵など馴染みあるテーマの実像や、疫病と日本人の闘いの歴史も明らかにした。大人気歴史エッセイの最新作。
内容説明
歴史には裏がある。古文書を一つずつ解読すると、教科書に書かれた「表の歴史」では触れられない意外な事実が見えてくる。明智光秀が織田信長を欺けた理由、信長の遺体の行方、江戸でカブトムシが不人気だった背景、忍者の悲惨な死に方、赤穂浪士が「吉良の首」で行った奇妙な儀式、漏洩していた孝明天皇の病床記録…。古文書と格闘し続ける著者が明らかにした、戦国、江戸、幕末の「歴史の裏側」がここにある。
目次
第1章 戦国の怪物たち(大仏を焼いたのは松永久秀か;久秀が大悪人にされた理由 ほか)
第2章 江戸の殿様・庶民・猫(三代・徳川家光の「女装」;甲賀忍者も勤め人 ほか)
第3章 幕末維新の光と闇(西郷隆盛、闇も抱えた男;幕末、公家の花見行 ほか)
第4章 疫病と災害の歴史に学ぶ(ねやごとにも自粛要請;感染楽観で繰り返した悲劇 ほか)
著者等紹介
磯田道史[イソダミチフミ]
1970年、岡山県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)。茨城大学准教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2016年、国際日本文化研究センター准教授、21年より同教授。18年、伊丹十三賞受賞。著書『武士の家計簿』(新潮新書、新潮ドキュメント賞受賞)、『天災から日本史を読みなおす』(中公新書、日本エッセイスト・クラブ賞受賞)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
紀伊国屋書店
感想・その他
この本の中で、特に興味深く、そして思わずクスリと笑ってしまうほど面白く感じたのが、第2章『江戸の殿様・庶民・猫』でした。江戸時代の庶民の暮らしや価値観が、ユーモアとともに描かれており、単なる歴史の教科書とは違った、人間味あふれる一面に触れられる章です。なかでも印象に残ったのが、関西の商人が江戸へ向かう道中で記した「道中記」を紹介したくだりでした。現代でいえば旅日記、あるいはSNSのようなものかもしれません。その記録がとにかく赤裸々で、読んでいて思わず目を見張るような記述が次々と出てきます。
この商人、とにかく女性好きだったようで、旅先の宿で遊女を買ったことが何度も記録されていました。「気に入った女性がいなかったので買わなかった」とか、「岡崎では600文で買った」など、驚くほどあけすけに、そして淡々と記されているのです。その語り口はまるで「今日は天気がよかった」くらいの気軽さで、なんとも飄々とした印象を受けました。
中でも「岡崎では600文で買った」という記述には、思わず「おお…具体的だな」と声が漏れそうになりました。現在の価値に換算すると、およそ3万円ほどに相当するそうです。この金額が高いのか安いのかは見る人によって感じ方が異なるでしょうが、妙に納得してしまったのも事実です。というのも、「気に入った女性がいなかったので買わなかった」という感情の動きや、価格に対する納得感などに、現代人とまったく変わらぬ“男のリアル”が垣間見えるからです。
こういった記録を通して浮かび上がるのは、江戸時代の人々も、我々と同じように喜怒哀楽を持ち、旅の楽しみや娯楽、ちょっとした贅沢を求めていたということ。教科書の中では硬直した人物像になりがちな江戸の商人が、こうして肉声を伴って登場することで、ぐっと身近に感じられるようになるのです。
当時の通貨感覚や遊女の値段を通じて、今も昔も“人の価値観”は案外変わっていないのかもしれない――そんな風に思わせてくれる、面白くも含蓄のある一節でした。
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