
私的評価
酒井美意子著『元華族たちの戦後史 没落、流転、激動の半世紀』を図書館で借りて読みました。wikiの「前田家」によれば、戦前は130人を超える使用人を抱え、大正時代には自動車を数台所有していて、車を磨くためだけの使用人までいたそうです。この本の著者は、そんな前田家のお姫様で、嫁ぎ先は雅楽頭酒井家(姫路藩主酒井)です。そんな人が書いた書籍ということで、我々庶民からすると少し鼻につく高飛車な感じの内容もありますが、今まで知りようがなかった「旧華族」のいろいろを知ることができ、とても興味深い内容でした。
激動の時代を生き抜いた著者の逞しさに驚嘆し、「最後はやはり人間力なんだなぁ」と妙に納得させられました。
★★★★☆
『元華族たちの戦後史 没落、流転、激動の半世紀』とは
単行本として宙出版より、1995年8月に出版されました。内容説明
明治以来、日本には華族と呼ばれた、文字どおりの上流階級が存在した。しかし、1945年8月の敗戦で、彼らは大きな変転に直面する。前田候爵家の姫君として生まれ、酒井伯爵家に嫁いでいた著者は、激動の昭和史をいかに生き抜き、何を目撃したのか。生き生きと綴られた皇族・華族たちの明暗交々の生き様と、驚きいっぱいの歴史的証言!
目次
序章 終戦前後
1章 華族解体
2章 敗戦以前の華族
3章 阿修羅の時代
4章 戦後を生きた元華族たち
5章 皇室の移り変わり
6章 マイ・ウェイ
7章 昭和の終熄
終章 平成の幕あけ
著者紹介
酒井美意子[サカイ ミイコ]
1926(大正15)年2月18日に侯爵・前田利為の長女として生まれ、雅楽頭系酒井家22代当主・酒井忠元の妻となる。ハクビ総合学院学長、百合姿きもの学院学長などを務めるかたわら、マナー・エチケットなどの評論家、エッセイストとしても活躍した。1999年逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
紀伊國屋書店
感想・その他
この本に描かれている「華族」とは、1869年(明治2年)から1947年(昭和22年)まで存在した、日本の近代における貴族階級のことを指します。明治維新という大きな変革の中で、武家や公家といった旧制度の上層階級を近代国家の中に組み込むべく創設されたのが、この「華族制度」でした。とはいえ、一口に「華族」といっても、その内部には明確な序列が存在していました。1884年(明治17年)7月7日、太政官布告第10号として発布された「華族令」によって、華族の家の当主は「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」の五つの爵位に叙されることとなりました。これは、イギリスをはじめとした西欧諸国の貴族制度を参考にしたもので、身分の上下や家格を明確に規定する制度だったのです。
この爵位には、それぞれに応じた叙爵基準が存在しました。たとえば、五摂家(近衛家、九条家、一条家、二条家、鷹司家)といった最高位の公家や、徳川家の宗家などは「公爵」とされました。また、明治政府において「国家に偉功ある者」とされた旧大名家──たとえば島津家(薩摩)、毛利家(長州)などの名門には「侯爵」が授けられるケースが多く見られました。まさに、旧体制の上層を“近代国家の功労者”として名誉を持って遇した制度だったのです。
このように華やかな響きを持つ華族ですが、実際にはさまざまな特権が与えられていました。たとえば「民事裁判において、みだりに証人として召喚されることがない」、「子弟は学習院に無試験で入学でき、高等科までの進学がほぼ保証されている」など、法的にも社会的にも優遇された立場でした。国家の“名誉階級”として厚遇されていたことがうかがえます。
しかしその一方で、すべての華族が等しく裕福だったわけではありません。特に中下級の旧公家にあたる家系などは、もともと経済的な基盤が脆弱だったため、生活に困窮し、やむなく華族の身分を返上する家も少なくなかったと言います。形式的には貴族であっても、実態は一般の市民と変わらぬ、あるいはそれ以下の生活を強いられていた者も存在していたのです。
その点、著者の前田家のような“大名華族”──とりわけ加賀百万石を領した前田家は、旧幕府時代から膨大な資産と人的ネットワークを保持しており、明治以降もその豊かな財産を維持していました。維新直後は「家禄」として金銭支給が行われ、その後も「金禄公債」という形で安定した収入を得ていたため、一般には非常に裕福だったと言われています。書中に登場する「130人を超える使用人」という数字も、そうした生活のスケールの大きさを物語っています。
このようにして読み進めていくうちに、「華族」という言葉にただ漠然とした“貴族的な優雅さ”を感じていた自分が、いかに表層しか見ていなかったかを思い知らされました。歴史的にはわずか80年足らずの存在だったとはいえ、華族制度は近代日本の社会構造や価値観の中に大きな影響を与えていたのです。
この本をきっかけに興味を持ち、「華族」というテーマを改めて調べ始めてみましたが、知れば知るほど興味深く、奥の深い世界です。格式、経済格差、近代日本との関わり、そして戦後の解体に至るまで──華族制度はまさに日本という国が近代化していく過程の縮図そのものであると感じさせられました。
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