私的評価
映画『すばらしき世界』を観ました。レンタルDVDででの鑑賞です。
主人公・三上は14歳で初等少年院に入って以来、受刑回数は10犯で刑務所生活は28年。ほとんどは暴力事件で、もっとも長い刑期が殺人事件を起こしての13年。その13年の刑期満了後から、この映画は始まります。この映画はなんと言っても役所広司さんです。キレた時のぞくぞくするような迫力ある表情とセリフ回し、そして時折見せる可愛らしい仕草など、三上についつい感情移入してしまうのは、そのすばらしい演技故でしょう。
役者・役所広司を楽しむ映画でもあります。
★★★★★
作品概要
脚本・監督は西川美和。原案は佐木隆三の「身分帳」。
製作は西川朝子、伊藤太一、北原栄治。
製作総指揮は濱田健二、小竹里美。
主演は役所広司、その他出演者に橋爪功、仲野太賀、長澤まさみ、北村有起哉、六角精児ほか。
2020年の日本映画。今までの監督作品の全てが自身のオリジナル作品だった西川監督にとって初の小説原案の作品です。2020年開催の第45回トロント国際映画祭に出品されワールドプレミア上映されましたが、その時の英題は『Under The Open Sky』でした。
作品の紹介・あらすじ
解説
『ゆれる』『永い言い訳』などの西川美和が脚本と監督を手掛け、佐木隆三の小説「身分帳」を原案に描く人間ドラマ。原案の舞台を約35年後の現代に設定し、13年の刑期を終えた元殺人犯の出所後の日々を描く。『孤狼の血』などの役所広司が主演を務め、テレビディレクターを『静かな雨』などの仲野太賀、テレビプロデューサーを『MOTHER マザー』などの長澤まさみが演じている。橋爪功、梶芽衣子、六角精児らも名を連ねる。
あらすじ
下町で暮らす短気な性格の三上(役所広司)は、強面の外見とは裏腹に、困っている人を放っておけない優しい一面も持っていた。過去に殺人を犯し、人生のほとんどを刑務所の中で過ごしてきた彼は、何とかまっとうに生きようともがき苦しむ。そんな三上に目をつけた、テレビマンの津乃田(仲野太賀)とプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)は、彼に取り入って彼をネタにしようと考えていた。
シネマトゥデイ
感想・その他
映画の題名『すばらしき世界』について、観終わったあと、私はしばらく考え込んでしまいました。この「すばらしい」とは一体、誰にとっての「すばらしさ」なのか――そう問いかけられているように感じたのです。主人公・三上にとって、この現実の社会、つまり「シャバ」は決して生きやすい世界ではなかったことは明らかです。映画の中で彼は、何度か「刑務所の方がよほど暮らしやすかった」と語ります。その言葉には、自嘲や諦めだけでなく、現代社会への深い失望と、居場所を持てない人間の苦悩がにじみ出ていました。
事実、出所した多くの元受刑者が再び犯罪者となり、刑務所に戻ってしまうのは、彼らが社会の中で自分の居場所を見つけることができないからだと言われています。「普通に生きていくこと」がどれほど難しいことか、社会の側にその用意がなければ、再出発も絵に描いた餅です。
三上は、不器用で真っすぐな人間です。厄介なことには目をそらし、耳障りなことは聞き流して、うまく世渡りする――そんなふうに立ち回ることができません。たとえ損をしても、自分の中の筋を通そうとする。誰かが困っていれば見て見ぬふりができない。でも、今の社会では、そういった「真っ当な人間らしさ」こそが、かえって生きづらさの原因になってしまうのです。
そんな世界を、果たして「すばらしき世界」と呼べるのでしょうか。
この映画のタイトルは、決して皮肉ではなく、むしろ願いに近いものだと、私は感じました。少なくとも、三上のような人が、当たり前に生きられる世界。そういう世界こそが、本当に「すばらしい世界」なのではないか。物語の最後に旅立っていった三上が、今度こそ穏やかでやさしい場所にたどり着けていることを、心から願わずにはいられませんでした。
そして、ここだけの話ですが――
ラストシーン、津乃田(仲野太賀)が何度も「三上さん!」と叫ぶ場面があります。あの切羽詰まったような声と、届かない距離感、胸を突き刺すような悲痛な空気感。私は気づけば、涙をこぼしながら、心の中で同じように叫んでいました。「三上さん……!」と。その声が届いてほしいと、願うような気持ちで。
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