私的評価
辻堂ゆめ著『今日未明』を図書館で借りて読みました。かなり長いあいだ待って、ようやく手にした一冊。それはもともと妻から「読んでみたい」と頼まれていた本でした。けれど、届いた本を手に取ってみると、その厚みと小さな文字に思わずたじろいでしまった妻。しかも「読もう」と思ってからかなりの時間が経ってしまい、正直、妻の中ではすっかり興味が薄れてしまっていたようです。そんな流れで、最終的に「じゃあ、俺が読んでみようか」と、私の手元にやってきたわけです。
ところが読み始めてみると、これが想像以上に面白い。気がつけば昼食後の30分が待ち遠しくなっていました。私にとって本の “面白さのバロメーター” は、読みながらあくびが出るか出ないか。この『今日未明』に関しては、もちろん欠伸なんて一度も出ませんでした。登場人物の心情や重たい空気感がじわじわと胸に迫ってきて、ページをめくる手が止まらないのです。
ただし――読み終えるころには、気分が少しどんよりするのは間違いなし。明るい読後感を求める人には向かないかもしれません。でも、心の底に静かに残る“何か”を感じたい人には、きっと刺さる一冊だと思います。
★★★★☆
『今日未明』とは
出版社内容情報
◆デビュー10周年記念作品◆
大藪賞作家が描く慟哭の犯罪ドラマ
あのとき、
もっと話せていたら
あの人を殺めずに、すんだのかな。
まだ引き返せる。
あなたがニュースになる前に。
【著者からのコメント】
目に留まる短いニュース。
憶測だらけのコメント。
肯定。否定。あふれかえる世間の声と、拾われることのない当事者の声なき声。
先入観ほど怖いものはないけれど、人間はそれを捨てられない生き物なのだとも思います。
それを浮き彫りにする5篇を書いたつもりです。
プロローグの「私」は、作者の私かもしれませんし、あなたかもしれません。
目次
「夕焼け空と三輪車」
「そびえる塔と街明かり」
「ジャングルジムとチューリップ」
「まだ見ぬ海と青い山」
「四角い窓と室外機」
内容紹介
自宅で血を流した男性死亡、別居の息子を逮捕。マンション女児転落死、母親の交際相手を緊急逮捕。乳児遺体を公園の花壇に遺棄、23歳母親を逮捕。男子中学生がはねられ死亡、運転の75歳女性を逮捕。高齢夫婦が熱中症で死亡か、エアコンつけず。新聞の片隅にしか載らない、小さな事件。その裏には、報道されない真相がある―。まだ引き返せる。あなたがニュースになる前に。大藪賞作家が描く慟哭の犯罪ドラマ。
著者紹介
辻堂ゆめ[ツジドウユメ]
1992年生まれ。神奈川県藤沢市辻堂出身。東京大学法学部卒業。2015年『いなくなった私へ』で第十三回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞しデビュー。『十の輪をくぐる』で第四十二回吉川英治文学新人賞候補となる。22年『トリカゴ』で第二十四回大藪春彦賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
紀伊國屋書店
感想・その他
たとえば、数行だけの短い新聞記事を見て、「また母親の交際相手による児童虐待か」と、つい分かったつもりになってしまうことがあります。しかし、ほんの数行の情報だけで、その出来事のすべてを理解できるはずがないのに、私たちは意外なほど簡単に結論づけてしまいがちです。その背景にどんな事情や人間関係があり、どんな時間の積み重ねがあったのかまで想像することは、ほとんどありません。今回読んだこの本は、そんな「見過ごされがちな小さなニュース」の裏側にある現実を丁寧に描き出していました。新聞記事ではわずかな文字でしか伝えられない出来事の背後には、関わった人たちそれぞれの生活や感情があり、悲しみや葛藤、愛情や憎しみといった、単純には割り切れない思いが複雑に絡み合っていることが伝わってきます。
読み進めるうちに、事件や事故というものは突然起こるものではなく、長い時間をかけて積み重なった起こるべくして起きたものだと強く感じました。そして同時に、日々のニュースを表面的にだけ理解して「知ったつもり」になってしまっている自分だと気づかされました。
普段何気なく目にしている小さな記事の向こう側には、想像以上に重く、複雑な現実がある――そんな当たり前のことを、あらためて静かに考えさせてくれる一冊でした。

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