村上紀夫著『幕末女性の生活:日記に見るリアルな日常』を読んだ感想

私的評価

村上紀夫著『幕末女性の生活:日記に見るリアルな日常』を図書館で借りて読みました。

本書は、江戸時代後期を生きた女性たちの日記をもとに、当時の暮らしぶりを紹介した一冊です。取り上げられているのは三人の女性の日記ですが、その中心となっているのは、『南総里見八犬伝』で知られる曲亭馬琴の息子の妻・路(みち)の日記です。

日記には、家の中の用事や年中行事、近所付き合いなど、日々の出来事が淡々と書き留められており、華やかな江戸文化とは少し違った、生活の現場が見えてきます。正直なところ、出来事の記録が続くため少し退屈に感じる部分もありましたが、それも含めて「当時の日常」なのだと思うと、かえって興味深く読めました。

行事の多さや人付き合いの密さからは、江戸時代の女性たちがかなり忙しく立ち働いていたことが伝わってきます。歴史の表舞台にはあまり登場しない女性たちの、等身大の暮らしをのぞき見ることができる一冊だと思います。

★★★☆☆

『幕末女性の生活:日記に見るリアルな日常』とは

内容紹介
幕末の暮らしを女性自身が書き残した日記から読み解く、歴史学入門書。ご近所との付き合い、飼い猫の一生、妊娠と出産、伝染病への対処、年中行事など、史料は高校までに学ぶ幕末の事件史とは全然違った細やかで豊かな世界を我々に見せてくれるだろう。用いるのは、滝沢馬琴の息子に嫁いだ路(みち)の日記、和歌山城下の質屋に嫁いだ峯(みね)の日記、和歌山藩藩校の助教の娘小梅の日記、河内国古市の商家の娘サクの日記である。

目次
はじめに――近世女性日記から
■第一章 一年――季節と年中行事
 正月と節分 ひなまつり 端午の節句 盆行事 誕生日 季節の移ろい
■第二章 日々のくらしとなりわい
 食と宴 猫の生涯 江戸時代の金魚飼育 あきない 贈答と貸し借り ご近所さん 縫い物
■第三章 事件と災害
 大塩平八郎の乱 黒船の来航 火事は怖い 安政大地震 ええじゃないか
■第四章 家族と女性の一生
 家族の病と死 婿養子と婚礼 妊娠と出産 疱瘡
おわりに――路、最期の日

著者紹介
村上紀夫[ムラカミノリオ](1970-)
1970年愛媛県今治市生まれ。大谷大学大学院文学研究科博士後期課程中退、博士(文学・奈良大学)。現在、奈良大学文学部史学科教授。 著書に『怪異と妖怪のメディア史―情報社会としての近世』、 『江戸時代の明智光秀』、『歴史学で卒業論文を書くために』(以上、創元社)。ほかに、『近世京都寺社の文化史』(法藏館)、『まちかどの芸能史』(解放出版社)、『文献史学と民俗学―地誌・随筆・王権』(風響社)などがある。

創元社

感想・その他

本書の中心人物である路(みち)さんは、曲亭馬琴(滝沢)の息子の妻にあたります。夫の興継(宗伯)は医師でしたが、馬琴よりも早く亡くなっており、路さんはその後も滝沢家を支える立場にありました。もともと路さんは、視力を失いつつあった馬琴に代わり、日記の代筆を務めていたとされていますが、馬琴の死後もそのまま筆を取り続けていたようで、本書はそうした記録が基になっているのではないかと思われます。

このような家柄ということもあり、日記からは比較的裕福で安定した暮らしぶりが伝わってきます。年中行事は欠かさず行われ、飢饉の際には炊き出しのような施しも行っており、当時としてはかなり余裕のある生活であったことがうかがえます。

中でも印象に残ったのが、隣家である林家の奥さんとの関係です。ある時期を境に、事実とは思えない噂話を言いふらし、滝沢家を陥れようとする様子が描かれており、思わず苦笑してしまいました。人間関係のこじれ方や噂話の広まり方は、時代が違っても変わらないものなのだと感じさせられ、現代にも通じる一面が垣間見えます。

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