私的評価
今村翔吾著『幸村を討て』を図書館で借りて読みました。図書館で借りましたが、かなり人気で半年以上待ちました。この本『幸村を討て』は幸村の物語かと思いきや、さにあらず。その兄である信之(信幸)と真田家の物語でした。真田家と幸村の物語は数あれど、今までとはまったく違う信之・幸村像が描かれております。また、大阪城に集まった武将たちの想いや思惑を絡ませて、大坂の陣で戦ったそれらの武将たちの物語でもありました。特に最後の3章、とりわけ最終章の「真田の戦い」は合戦ではありませんが、手に汗握る戦いでした。
とにかくとても面白かったです。
★★★★★
『幸村を討て』とは
単行本として宙出版より、1995年8月に出版されました。幸村を討て出版社内容情報
直木賞受賞第一作
昌幸、信之、幸村の真田父子と、徳川家康、織田有楽斎、南条元忠、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永らの思惑が交錯する大坂の陣――男たちの陰影が鮮やかに照らし出されるミステリアスな戦国万華鏡。
誰も知らない真田幸村
神秘のベールに包まれた武将の謎を、いま最も旬な作家が斬る!
七人の男たちが、口々に叫んだ――幸村を討て!
彼らには、討たなければならないそれぞれの理由が……。
内容説明
亡き昌幸とその次男幸村―何年にもわたる真田父子の企みを読めず、翻弄される諸将。徳川家康、織田有楽斎、南条元忠、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永、ついには昌幸の長男信之までもが、口々に叫んだ。「幸村を討て!」と…。戦国最後の戦いを通じて描く、親子、兄弟、そして「家」をめぐる、切なくも手に汗握る物語。
著者等紹介
今村翔吾[イマムラショウゴ]
1984年京都府生まれ。2017年刊行のデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で、18年、第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。同年、「童神」で第10回角川春樹小説賞を受賞。『童の神』と改題された同作は第160回直木賞候補にもなった。20年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞と第8回野村胡堂文学賞を受賞。同年、『じんかん』が第163回直木賞候補になるとともに、第11回山田風太郎賞を受賞。21年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで第6回吉川英治文庫賞を受賞。22年『寒王の楯』で第166回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されていた著者の紹介情報です。
紀伊國屋書店
感想・その他
真田家を描いた作品と言えば、やはり真っ先に思い浮かぶのが池波正太郎の傑作小説『真田太平記』です。私も文庫版で全巻揃えており、本棚の一角を堂々と占めています。史実を巧みに織り交ぜながら、登場人物たちの人間臭さや葛藤、時代のうねりに翻弄されながらも懸命に生き抜こうとする姿が描かれており、何度読み返しても飽きない名作です。映像作品で言えば、私が一番に思い出すのは、1985年にNHKで放送されたテレビドラマ版の『真田太平記』。ずっと大河ドラマだと思っていたのですが、実は「新大型時代劇」という枠で、水曜日の夜に一年間かけて放送された作品でした。大河ドラマと遜色のない重厚なつくりとキャスティングで、今なお印象に残っている名作です。
1984年から1986年にかけての「近代大河3部作」(『山河燃ゆ』、『春の波涛』、『いのち』)が放送されていた時期に、従来の時代劇路線の大河ドラマのファンのためにそれまで軽い内容で娯楽系の「水曜時代劇」が放送されていた水曜日の20時台に新たに設けられた。放送曜日と予算は大河ドラマと異なるが出演者に大河ドラマ出演者が多く、1年間の放送であったことから大河ドラマに準じる連続大型時代劇として扱われることも多い。
Wikipedia
中でも忘れられないのが、真田昌幸を演じた丹波哲郎さんの存在感。どこかとぼけたような笑みを浮かべながらも、腹の底では何を考えているかわからない謀将・昌幸のイメージが、私の中では完全に“丹波昌幸”で定着してしまいました。「真田昌幸という人物は、まさにこういう男だったに違いない」と思わせるほどのはまり役で、あの底知れぬ知略と狡猾さ、そして時折見せる父としての情の深さを丹波さんは見事に表現していました。
そして時を経て、今度はその『真田太平記』で幸村を演じた草刈正雄さんが、2016年の大河ドラマ『真田丸』では父・昌幸役を演じるという、ファンにとっては胸熱な展開がありました。あの“若き幸村”が、時を超えて“父・昌幸”を演じる。草刈さん演じる昌幸もまた、豪放磊落で人たらし、同時に冷徹な現実主義者としての顔を持ち合わせており、新たな昌幸像としてとても魅力的でした。正直言って、どちらの昌幸も甲乙つけがたい名演です。
そんな数ある真田モノの中でも、今回読んだ『幸村を討て』は、これまでとはひと味もふた味も違う視点で描かれていて、本当に面白い作品でした。これについては、以前の私的評価でも書きましたが、真田幸村を英雄として称えるばかりでなく、彼を“討たねばならなかった側”から描くという切り口に驚かされました。もちろん史実の裏打ちもありつつ、描かれるのは、戦国という時代の理不尽さと非情さ、そしてそれに向き合わざるを得なかった人々の苦悩と決断です。
従来の“真田びいき”な視点とは異なり、幸村の生涯を少し離れたところから見つめ直すことで、逆に彼の偉大さや孤高の存在感が際立つという、見事な構成でした。時代劇ファン、そして真田ファンにとっても、非常に新鮮で見応えのある作品だったと思います。
こうして思い返すと、真田家の物語は、語り継がれるたびに新たな解釈と光が当てられ、いまだに私たちを魅了し続けているのだと実感します。時代を超えてなお、生き生きとした存在感を放ち続ける――それこそが、真田家という武家の最大の魅力なのかもしれません。
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