
『砂田弓弦写真集 クラシックレース 壁のないコロシアム』を見ました。
正直なところ、私はこれまで「写真集」を手に取る習慣があまりありませんでした。どちらかというと、文字情報やデータをじっくり読み込むタイプなので、書店や図書館でも、写真集の棚はなんとなく素通りしてしまいがちです。ですが、この本だけは、表紙に目を奪われました。泥だらけの選手、荒々しい石畳、険しい表情……その一瞬を切り取った写真に強烈な迫力があり、思わず手を伸ばしていました。
借りてパラパラとページをめくるうちに、完全に引き込まれました。
画面いっぱいに広がるクラシックレースの情景。プロトンの緊張感、沿道の観客の熱狂、春先の重たい空気感までもが写真を通じて伝わってきます。自転車レースを知っている人なら、なおのことその臨場感が鮮やかに浮かび上がるでしょうし、知らない人でも、その「熱」と「狂気」に圧倒されるはずです。
写真集というと「きれいな写真を静かに眺める」ようなイメージがありましたが、この本はむしろ逆。ページをめくるたびに、ゴールスプリントの轟音や、選手の荒い息づかい、ブレーキの軋む音まで聞こえてくるようで、じっとしていられない衝動に駆られます。
そして特筆すべきは、ただのビジュアル集にとどまらず、砂田弓弦さん自身の文章がところどころに挿入されている点。これがまた良いのです。 写真の撮影時の裏話、選手たちとの距離感、クラシックレースの文化や歴史についての解説など、語り口は決して饒舌ではないけれど、確かな実感と深い観察眼に裏打ちされていて、一つひとつの言葉がじわじわと心に残ります。
選手を「撮る」だけでなく、「見てきた」人の目線。しかも、それがただの観客やメディアの視点ではなく、「同じ空気の中にいた人」としての視点であることが、この写真集の大きな魅力だと感じました。
自転車ファンにはもちろん、スポーツの“魂”に触れたい人にもぜひおすすめしたい写真集です。写真集は観るものというより、“浴びる”ものなのかもしれません。
ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリアに続く 砂田弓弦の自転車ロードレース写真集、その第3弾はクラシックレース。 サブタイトルは“壁のないコロシアム”。 ワンデーのクラシックレースは文字通り1日限りの真剣勝負で、 自転車に乗るグラデュエーターの闘いという意味を込めました。 この写真集は、自転車ワンデークラシックレースをテーマにした日本初の刊行物です。 ツールやジロ以外にも熱狂的な自転車レースがあり、それを知ってもらいたいという著者の強い思いが込められています。 国際舞台で活躍する自転車レース・フォトグラファー砂田弓弦が 23年間取材したクラシックレースの写真からベストショットをピックアップし1冊に凝縮。 レースごとに分類した組み写真を、雑誌に掲載したエッセイ28編とCICLISSIMO(チクリッシモ)誌連載記事の「5大クラシックレース物語」5編と、ともに掲載しています。
砂田弓弦写真集 クラシックレース 壁のないコロシアム
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