
現在開催中の世界最大級の自転車レース「ツール・ド・フランス」。その過酷さは言うまでもなく、トップレベルの選手たちですら限界まで体力と精神力を絞り出して走っています。そんなレースの厳しさを、まさに“視覚的に”物語る一枚の写真が、Instagramでちょっとした話題を呼んでいます。
投稿したのは、ボーラ・ハンスグローエに所属するポーランド人選手、パヴェル・ポリャンスキー。写真は7月18日に行われた第16ステージ終了後に撮影されたものと見られます。写っているのは彼自身の両脚――驚くほど浮き上がった血管、深く刻まれた筋肉の陰影、そして日焼けでくっきり分かれたジャージの跡。まさに「極限の肉体」という表現がふさわしい衝撃的な一枚です。
そして添えられたコメントには、控えめながらも重みのある一言が綴られています。
“After sixteen stages I think my legs look little tired.”
「16ステージを走り終えて、どうやら僕の脚は少し疲れているようだね」
この言葉、何とも飄々としていながら、言外に計り知れない疲労と覚悟が滲み出ています。あの写真を見ると、思わず「“少し”どころじゃないだろう!」と突っ込みたくなるほどですが、彼らにとってはこれが“日常”なのでしょう。

この投稿を見て思い出したのが、日本人プロロード選手・山本元喜選手の著書『僕のジロ・デ・イタリア』です。2016年に開催された、ツールと並ぶグランツールのひとつ「ジロ・デ・イタリア」に初出場した山本選手が、自身の体験を綴った完走記録で、全ステージの舞台裏が非常にリアルに描かれています。
本書では、単にレースの結果を追うのではなく、毎日のコンディション管理、補給食の工夫、メンタルの保ち方、宿舎での過ごし方など、選手の日常が赤裸々に語られています。例えば、身体が食事を受けつけなくなるほどの疲労や、ステージ中のわずかな判断ミスが命取りになる緊張感など、読んでいるうちに「こんな過酷な世界を彼らは生きているのか」と、ただただ感服してしまいます。
この本を読んでからポリャンスキー選手の写真を見ると、その異様な脚も、軽やかなコメントも、すべてが腑に落ちてきます。彼らにとっては“これが普通”。私たちの想像を遥かに超える強靭さと精神力で、彼らは毎日200km以上を走り、山を越え、風と闘っているのです。
ロードレースの世界は、ひとつのスポーツという枠を超えた、人間の極限に挑む壮大なドラマだと改めて感じさせられます。写真一枚と一冊の本が、それを強く実感させてくれました。
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