今村翔吾著『海を破る者』を図書館で借りて読んだ感想など

私的評価

今村翔吾著『海を破る者』を図書館で借りて読みました。

元寇で活躍した伊予水軍の将・河野通有。その活躍を描いた戦記ものだろうと思い、手に取りました。

読み進めると、終盤には弘安の役での活躍も描かれているものの、物語の大半は戦そのものではなく、河野通有の人となりや生き様に焦点を当てた内容でした。人物像を丁寧に作り上げた作品ではあるのですが、当初期待していた「戦記」としての側面はやや控えめに感じられます。

元寇については、これまで断片的で通り一遍の知識しか持っていません。だからこそ、鎌倉武士たちがあの強大な敵とどのように対峙し、どのように戦い抜いたのか、その緊張感や戦場の実相に迫るような物語を読みたいという思いがありました。

人物中心の物語としては興味深く読めた一方で、戦いそのものを軸に据えた描写をもう少し期待していた、というのが正直な感想です。

★★★☆☆

『海を破る者』とは

今村翔吾著、2024年5月に文藝春秋から発刊されました。有力御家人から没落してしまった伊予の河野家。弘安の役での活躍し、失われていた河野氏の旧領を回復し、河野氏中興の祖とも呼ばれる河野通有を描いた歴史小説です。

出版社内容情報
なぜ、人と人は争わねばならないのか?
日本史上最大の危機である元寇に、没落御家人が御家復興のために立つ。
かつては源頼朝から「源、北条に次ぐ」と言われた伊予の名門・河野家。しかし、一族の内紛により、いまは見る影もなく没落していた。
現在の当主・河野通有も一族の惣領の地位を巡り、伯父と争うことを余儀なくされていた。
しかしそんな折、海の向こうから元が侵攻してくるという知らせがもたらされる。いまは一族で骨肉の争いに明け暮れている場合ではない。通有は、ばらばらになった河野家をまとめあげ、元を迎え撃つべく九州に向かうが……

アジア大陸最強の帝国の侵略を退けた立役者・河野通有が対峙する一族相克の葛藤と活躍を描く歴史大河小説。

内容説明
伊予・河野家は、一族の内紛により没落していた。かつての名門御家人が、元寇を退ける立役者となるまでを熱く描く歴史大河小説。

著者等紹介
今村翔吾[イマムラショウゴ]
1984年、京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。同作で歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。2018年「童神」(刊行時『童の神』と改題)で角川春樹小説賞を受賞。2020年『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞、『じんかん』で山田風太郎賞、2021年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで吉川英治文庫賞、2022年『塞王の楯』で直木三十五賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

紀伊國屋書店

感想・その他

『元寇』については、学校で習った以上の知識はほとんどありません。記憶に残っているのは、「神風が吹いて日本を救った」という説明と、竹崎季長が馬上で戦うあの有名な絵くらいです。

ところが、あらためてWikipediaで『元寇』を調べてみて驚きました。私たちが教科書で目にしていたのは、その絵のほんの一部分に過ぎなかったのです。実際の絵巻は倍ほどの長さがあり、馬上の季長が描かれているのは右側。左側には、敗走する蒙古軍の様子がしっかりと描かれていました。

教科書に掲載されていた部分だけを見ると、いわゆる「やあやあ我こそは…」という一騎打ち的な戦いの中で、鎌倉武士が苦戦しているような印象を受けがちです。しかし、全体図で見ると印象は大きく変わり、むしろ蒙古軍を押し返している場面として受け取ることもできます。

もちろん、この絵は戦後に描かれたものであり、ある程度の誇張や演出が含まれている可能性は考慮する必要があります。それでも、少なくとも弘安の役においては、最終的に台風の影響が大きかったことは確かですが、それ以前の段階で局地的な戦闘は繰り返されており、一方的に押し込まれていたわけではなく、むしろ勝利していたのです。

教科書で得た断片的な知識と、実際の史料や全体像とを比べてみると、歴史の見え方が大きく変わることを実感しました。

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