私的評価
高木彬光著『白昼の死角』をAmazonのPrime Readingで読みました。読む本が無くなり、Prime Readingで何となく見つけたのがこの『白昼の死角』でした。今まで著者の高木彬光氏の作品は読んだことがなく、本当に何となく選らんだのがこの本でした。
読み始めてすぐに、その独特な世界観と緻密な構成に引き込まれました。戦後の混乱期という時代背景を巧みに取り入れながら、詐欺というテーマを軸に展開される物語は、どこか背筋が寒くなるようなリアリティを感じさせます。まさに、人の心理や欲望の隙間に入り込んでくる「知能犯」の怖さを描いた一冊です。
★★★★☆
『白昼の死角』とは
内容紹介
高木彬光の推理小説。1959年5月1日から1960年4月22日まで『週刊スリラー』に連載された(連載中は『黄金の死角』)。1960年、カッパ・ノベルス(光文社)刊行。
1979年に映画化、テレビドラマ化されて話題となった(テレビドラマは1963年版もある)。
大企業を相手に完全経済犯罪を目論む鶴岡七郎の暗躍を描いたピカレスクロマン。
小説前半の太陽クラブ立ち上げの部分は、実在の事件である光クラブ事件がベースとなっているが、後半の鶴岡の犯罪記録は実在の人物からの取材を基としたオリジナルの物語となっている。
戦争帰りの東大法学部生らを中心とする学生金融会社「太陽クラブ」の残党である鶴岡は、法律の盲点(死角)を突き、手形詐欺などを働く。鶴岡の手法は、事前に十分な情報を収集し、「一滴の血も流さず」に行うもの(本人いわく、「イチかバチかの博打ではない」)。しかし、犯罪の成功によって、手形をパクられた被害者ばかりでなく、友人、妻、愛人も不幸になっていく。残された鶴岡は…。
著者紹介
高木彬光[タカギ ミツアキ]
1920年(大正9年)生まれの日本の推理小説作家。青森県青森市生まれ。京大卒業後、中島飛行機に就職したが太平洋戦争終結に伴い職を失う。1947年、骨相師の勧めにより小説家を志し、出来上がった長編『刺青殺人事件』が江戸川乱歩に認められて、翌1948年に出版の運びとなり、推理作家としてデビュー。
代表作に『能面殺人事件』(1950年、第3回探偵作家クラブ賞受賞)、『わが一高時代の犯罪』(1951年)、『人形はなぜ殺される』(1955年)、『成吉思汗の秘密』(1958年)、『白昼の死角』(1960年)、『破戒裁判』(1961年)など。主要な探偵は神津恭介(かみづきょうすけ)。そのほか百谷泉一郎弁護士・霧島三郎検事など。
Wikipedia
感想・その他
読み終えてから調べてみたところ、この作品はかつて映画やテレビドラマにもなっていたことを知りました。映画版は1979年公開、ドラマ化はそれより早い1963年と、映画と同じく1979年にもテレビドラマが放送されていたようです。特に1979年の映画版は相当な力の入りようだったようで、キャスト陣の豪華さに驚きました。主演の梅宮辰夫をはじめ、当時を代表する錚々たる俳優たちが顔を揃えています。しかしそのうち半数以上はすでに鬼籍に入られており、作品に触れることで改めて時の流れを感じずにはいられませんでした。そして印象的だったのが、映画と1979年版のドラマ、どちらにも使われた主題歌――ダウンタウン・ブギウギ・バンドの「欲望の街」。当時この曲はかなり流行っていたようで、私は映画もドラマも観ていないはずなのに、サビの部分だけはなぜか耳に残っていました。懐かしさに駆られて、YouTubeで改めて聴いてみたのですが、昭和らしい哀愁のこもったメロディと歌詞が胸に沁みました。虚構と現実の間で揺れるような世界観が、この小説にもぴったり寄り添っていて、主題歌としても秀逸だと感じました。
小説としても優れている本作ですが、時代背景や映像作品、音楽といった周辺情報を知ることで、作品が持つ厚みや広がりがいっそう感じられる一冊となりました。興味を持たれた方には、ぜひ小説に加えて映画や主題歌にも触れてほしい作品です。
0 件のコメント:
コメントを投稿