私的評価
映画『護られなかった者たちへ』を観ました。レンタルDVDでの鑑賞です。
この作品が描くのは、東日本大震災という未曾有の災害がもたらした現実と、被災地の避難所で生まれた疑似家族的な絆、そしてその後に浮かび上がってくる生活保護制度の歪みや不正受給の問題。ただの社会派サスペンスではなく、人の生き死にと、制度の陰に隠れてしまった“声なき声”を丁寧にすくい上げた、非常に重く、そして痛みを伴う物語でした。
映画は冒頭から終盤にかけて、常に重苦しい空気に包まれて進みます。誰かが笑うシーンも、明るく前を向く瞬間も、ほとんどありません。唯一の救いのような場面すら、どこか影が差していて、終始張り詰めた緊張感の中で物語が展開していきます。観ているこちらも、まるで水の中で呼吸を忘れてしまったかのような感覚に陥り、エンドロールが流れ始めるまで一度も気を緩めることができませんでした。
ただ、それは決して「つまらない」「退屈」という意味ではありません。むしろその逆で、観る者に静かな衝撃を与える力を持った作品だと感じました。 登場人物たちは誰もが何かを抱え、苦しみ、迷いながらも生きようとしています。ときに制度に翻弄され、ときに他人を傷つける選択をしてしまう彼らの姿に、何度も心を締めつけられました。
とくに印象的だったのは、震災を経験した人々の間に自然と生まれた「家族のようなつながり」。血のつながりではなく、それでも深く互いを思いやるその関係性が、後半の展開に大きく関わっていきます。単なる事件の真相を追う映画ではなく、「人が人をどう思い、どう生きるか」という根源的な問いを突きつけてくる――そんな深みのある作品でした。
今もなお、東日本大震災の記憶は多くの人々の中に生き続けていますが、震災後の数年間に何が起きていたのか、被災者たちがどのような制度に向き合っていたのか、そうした現実に改めて思いを馳せるきっかけとなる一本です。
観終えたあとには、しばらく言葉が出ませんでした。静かに目を閉じて、登場人物たちの顔や声を思い返しながら、深く息を吸い直すような、そんな余韻の残る映画でした。
★★★☆☆
作品概要
監督は瀬々敬久。脚本は林民夫、瀬々敬久。
原作は中山七里の宮城県警シリーズ「護られなかった者たちへ」。
製作は筒井竜平、福島大輔。
主演は佐藤健、その他出演者に阿部寛、清原果耶、林遣都、永山瑛太、緒形直人、吉岡秀隆、倍賞美津子ほか。
2021年10月公開の日本映画です。原作は『河北新報』などに2016年2月から2017年9月に連載され、単行本がNHK出版より2018年1月25日に発売されました。日本の生活保護制度の欠陥に鋭くメスを入れる社会派ミステリー映画です。
作品の紹介・あらすじ
解説
映像化もされた「さよならドビュッシー」などの中山七里の小説を原作にしたミステリードラマ。宮城県で発生した連続殺人事件の容疑者となった青年と、彼を追う刑事の姿から日本社会が抱える格差の実態を浮き彫りにする。監督は『楽園』などの瀬々敬久。『るろうに剣心』シリーズなどの佐藤健、『のみとり侍』などの阿部寛のほか、清原果耶、倍賞美津子、吉岡秀隆、林遣都らが出演する。
あらすじ
東日本大震災から9年が経った宮城県の都市部で、被害者の全身を縛った状態で放置して餓死させるむごたらしい連続殺人事件が起こる。容疑者として捜査線上に浮かんだのは、知人を助けるために放火と傷害事件を起こし、刑期を終えて出所したばかりの利根(佐藤健)。被害者二人からある共通項を見つけ出した宮城県警の刑事・笘篠(阿部寛)は、それをもとに利根を追い詰めていく。やがて、被害者たちが餓死させられることになった驚くべき事件の真相が明らかになる。
シネマトゥデイ
感想・その他
最近(2022年6月現在)ではコロナ関係の持続化給付金の不正受給のニュースが、ニュースになって世間を賑わせています。この映画では生活保護を不正に受け取っている輩(千原せいじさんがそれっぽく演じています)が出てきますが、高級車を所持していたり、受給してパチンコ屋に直行なんかはよく見聞するところです。ところが、不正受給の割合は保護費全体の0.4%程度で大きな変化はないようです。しかも、その中には悪質とはいえないケースも含まれています。例えば、高校生の子どものアルバイト料の申告漏れ(知らなかった)などです。しかし、0.4%程度とは言え、100億円を優に超える金額になっているのを考えると、やはり受給要件の厳格化を推す声が挙がるのも理解できます。
すべての国民は生活保護を受けられる権利があり、要件に該当する人はいかなる場合でも受給できるはずですが、現実は異なるようです。財政難による給付要件の引き下げや、役所による給付の抑制などで、申請してもなかなか給付されないケースがあるようです。
考えるに、日本という国の国力の低下が一番の原因ではないでしょうか。困っている人が利用しやすく、生活を再建することができる、そんな国になってもらいたいものです。この映画を観て、そんなことを思いました。
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