私的評価
イギリスの犯罪ドラマテレビシリーズ『埋もれる殺意 18年後の慟哭』(シーズン3)を観ました。Amazonプライムビデオでの視聴です。
このシリーズは派手なカーチェイスや銃撃戦といったアクションシーンが一切なく、静かに、淡々と物語が進行していきます。しかし、その抑制された演出が逆にリアリティを高め、気づけば視聴者自身がドラマの世界に深く引き込まれてしまいます。刑事たちの地道な捜査や、被害者家族の複雑な思いが丁寧に積み重ねられ、時間を忘れて没頭できるのがこの作品の大きな魅力です。
以前のシーズンでも感じた「最初に提示される容疑者の中に犯人がいるのでは?」というヒントめいた仕掛けは、今回も健在。物語が進むにつれて真相が少しずつ姿を現し、観ている側も一緒に推理を楽しめる構造になっています。誰が犯人なのか、どんな動機なのかを考えながら観る時間は、まさに極上のミステリー体験です。
シーズン3もその完成度の高さは変わらず、一気観してしまうほどの面白さでした。ド派手な刺激ではなく、人間の心の奥に潜む闇や、過去に縛られ続ける人々の悲哀を描くからこそ、強い余韻が残ります。ミステリードラマ好きはもちろん、心にじわりと残る重厚な人間ドラマを求めている方にも強くおすすめできる作品です。
★★★★☆
作品概要
監督はアンディ・ウィルソン。脚本・製作はクリス・ラング。
主演はニコラ・ウォーカー、共演にはサンジーヴ・バスカー、アレックス・ジェニングスほか。
シーズン1『埋もれる殺意~39年目の真実~』(全6話)は2015年に放送。
シーズン2『埋もれる殺意~26年の沈黙~』(全6話)は2017年に放送。
BBC制作で、今シーズン3(全6話)は2018年に放送されました。
作品の紹介・あらすじ
作品の紹介
高速道路の中央分離帯の地中から白骨遺体が見つかり、警部キャシーとその部下サニー(S・バスカー)らの捜査チームが真相解明に乗り出す。調査から白骨遺体は18年前に失踪した若い女性のものであることがわかり……。
ロンドンで未解決事件を追うキャシーたちの姿を中心に、ノース・ノーフォーク、ブリストルなど英国の各地で、4人の男性が繰り広げる人間関係を並行して描写。これまでと同様、一見すると無関係のように思える登場人物たちに、物語が進むにつれ事件とのつながりが見えてくるという緻密なストーリー展開は健在で、英紙でも絶賛された推理サスペンスの秀作だ。全英ITV系では第4弾の放送も予定している。
あらすじ
ロンドンの高速道路の中央分離帯で、地中から女性のものと思われる白骨遺体が見つかる。その腕には金属プレートで骨折を修復した痕が見つかり、少なくともこの60年以内に亡くなったと推察される。捜査に当たった警部キャシーと部下のサニーらは、プレートに刻まれたロゴからそれが外国製だと判断。病院で、プレートについての聞き込みを開始。プレートはキプロスのメーカーのものだと分かり……。
一方、ハムハーストで診療所を開く医師のティム、うだつの上がらない金融営業マンのピート、ブリストルで車中生活をしながら画家として生計を立てるクリス、TVのクイズ番組の司会を務めるジェームズの男性4人はそれぞれ、不安やある面倒事を抱えており……。
WOWOW
感想・その他
ロンドン・ビショップ署に勤務する女性警部キャッシーを演じるのは、ロンドン・ステップニー出身の女優ニコラ・ウォーカー。1970年生まれとのことで、2020年当時はちょうど50歳ということになります。イギリスでは数多くのテレビドラマや舞台で活躍しており、確かな演技力と存在感で幅広い役をこなしてきたベテランです。 彼女の顔立ちは一見すると美人系ですが、さすがに50歳ともなると、アップになったときに多少の弛みや年齢のサインが目立ちます。しかし、それこそが役にリアリティを与えているようにも思えます。完璧な美しさを保つ女優とは違い、「年齢を重ねてきた女性」としての厚みがにじみ出ており、キャッシーという役柄に深みを与えているのです。若い頃はかなりの美人だったろうと想像できますが、その頃の写真を見つけられなかったのは少し残念です。ちなみに現在Amazonプライムでは、彼女が主演する『ザ・スプリット 離婚弁護士』も配信されており、こちらでも違った魅力を感じられます。一方、キャッシーの相棒であるサニル・“サニー”・カーンを演じるのは、ロンドン・イーリング出身のサンジーヴ・バスカー。コメディアンとしてのキャリアも長く、イギリスではテレビや舞台で幅広く活動してきた人物です。2020年当時で56歳。外見からも分かるようにインド系のルーツを持ちますが、実際には家系をたどるとパキスタンに先祖を持つそうです。
サンジーヴ・バスカーを見ていると、ふと日本の芸能人に重ねてしまいます。まるでコント55号の故・坂上二郎さんのようで、特に「飛びます、飛びます」と言っていた頃の二郎さんを彷彿とさせる体型と柔和な顔立ちなのです。ただし、コメディアンとして名を馳せてきたにもかかわらず、このドラマの中では終始シリアスな演技に徹しており、そのギャップには驚かされます。軽妙な笑いを生むこともできる人が、ここまで真摯にシリアスな役を演じられるというのは、役者としての幅の広さを証明していると言えるでしょう。
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