私的評価
映画『万引き家族』を観ました。レンタルDVDでの鑑賞です。
この映画の題名「万引き」について考えてみると、最初はスーパーなどで行う単なる窃盗行為を思い浮かべます。映画でも実際に、家族は生活費を稼ぐために万引きをしているシーンが描かれています。しかし、この作品の本質は、単なる窃盗の描写にとどまらないように感じました。
映画を観終わった後に改めて考えると、この「万引き」という題名は、物理的なモノを盗む行為だけでなく、家族という人間関係や愛情、社会の枠組みの中で失われたものを奪うことも示唆しているように思えます。たとえば亜紀や祥太が「りん」を家族として受け入れ、生活の一員として共に暮らす姿は、一見すると温かい家族のようですが、社会的には「万引き」に等しい行為とも言えます。つまり、この家族は血のつながりや社会的規範を「盗んで」生きているのです。
そう考えると、題名の奥深さに改めて感心させられます。単なる犯罪映画ではなく、人間の孤独や家族の絆、そして倫理観の境界線を問いかける作品として、非常に考えさせられる映画でした。観た後も、しばらく頭の中で登場人物たちの行動や感情が巡り、余韻が消えませんでした。
★★★★☆
作品概要
監督・脚本・原案は是枝裕和。製作は石原隆他。
出演はリリー・フランキー、安藤サクラです。
2018年公開の日本映画です。『三度目の殺人』や『海街diary』の是枝裕和監督が、家族ぐるみで軽犯罪を重ねる一家の姿を通して、人と人とのつながりを描いた映画です。2018年・第71回カンヌ国際映画祭で、日本映画としては1997年の『うなぎ』以来21年以来となるパルムドールを受賞しました。
作品の紹介・あらすじ
解説
『誰も知らない』『そして父になる』などの是枝裕和監督による人間ドラマ。親の年金を不正に受給していた家族が逮捕された事件に着想を得たという物語が展開する。キャストには是枝監督と何度も組んできたリリー・フランキー、樹木希林をはじめ、『百円の恋』などの安藤サクラ、『勝手にふるえてろ』などの松岡茉優、オーディションで選出された子役の城桧吏、佐々木みゆらが名を連ねる。
あらすじ
治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は万引きを終えた帰り道で、寒さに震えるじゅり(佐々木みゆ)を見掛け家に連れて帰る。見ず知らずの子供と帰ってきた夫に困惑する信代(安藤サクラ)は、傷だらけの彼女を見て世話をすることにする。信代の妹の亜紀(松岡茉優)を含めた一家は、初枝(樹木希林)の年金を頼りに生活していたが……。
シネマトゥデイ
感想・その他
りんちゃん役の佐々木みゆちゃん。どこかで見たことがあると思ったら、AmazonのCM(アレルギーでパンが食べられない子供の話)の出演者だったんですね。あのCMを観たとき、私は正直かなり違和感を覚えていました。パンを振る舞うおばさんたちの表情や仕草が、どこかいやらしく、無理に喜ばせようとしているように見えてしまったのです。だって、りんちゃん(アレルギーのある子)が悲しそうな顔をしているじゃないですか。普通なら、まずりんちゃんに「いらっしゃい」と声を掛けて、安心させてから「あなたも食べられるパンだよ」と伝えるべきなのに、と私は思ってしまいました。映画を観ながらも、そのときの違和感が思い出され、りんちゃんの表情ひとつひとつに心を動かされました。特にラストシーンは、できれば見たくなかったのですが、それでも心に深く残りました。偽物の家族、血のつながりはないけれど、りんちゃんはあの家族の中で確かに幸せだったんだ、と感じる瞬間があったからです。映画全体を通して、笑いや涙だけでなく、人間の孤独や温かさ、そして小さな幸福の価値について考えさせられる作品でした。
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