
私的評価
森合正範著『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』を図書館で借りて読みました。この本を読んで、改めて井上尚弥というボクサーの凄さを実感しました。彼と対戦した敗者たちが口を揃えて語るのは、井上がボクシングに必要な全ての能力を一級品として備えているということです。一般的に、世界チャンピオンクラスの選手でも「パンチ力はあるがスピードが足りない」「ディフェンスは優れているがパンチ力が不足している」といった得手不得手があるものです。しかし、井上尚弥の場合はどうでしょう。もし能力をレーダーチャートで表せば、その形はまさに理想的な「全て満点」の形になると言えるでしょう。
そんな井上尚弥を、数々の世界チャンピオンクラスのボクサーたちが「怪物」と称しています。無敵と思えるほどの存在ですが、人間である以上、絶対ということはありません。半月後(2024年5月6日)に迫ったネリ戦は、KO勝利が濃厚と見られますが、それでも試合を観るときはドキドキしてしまうでしょう。井上尚弥がどんな戦いを見せてくれるのか、期待に胸が高まります。
とても読み応えのある本で、特にボクシングが好きなお方にはお勧めです。
★★★★☆
『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』とは
森合正範著、2023年10月に講談社より刊行されました。井上尚弥というリング誌のPFP1位の座に就いた怪物ボクサーを書くために、怪物に挑んで敗れたボクサーの視点から怪物に迫った本となります。内容説明
「みんな、井上と闘うなら今しかない。来年、再来年になったらもっと化け物になる」
2013年4月、井上尚弥のプロ3戦目の相手を務めた佐野友樹はそう叫んだ。
それからわずか1年半、世界王座を計27度防衛し続けてきたアルゼンチンの英雄オマール・ナルバエスは、プロアマ通じて150戦目で初めてダウンを喫し2ラウンドで敗れた。「井上と私の間に大きな差を感じたんだよ……」。
2016年、井上戦を決意した元世界王者・河野公平の妻は「井上君だけはやめて!」と夫に懇願した。
WBSS決勝でフルラウンドの死闘の末に敗れたドネアは「次は勝てる」と言って臨んだ3年後の再戦で、2ラウンドKOされて散った。
バンタム級とスーパーバンタム級で2階級4団体統一を果たし、2024年5月6日に東京ドームでルイス・ネリ戦を控えた「モンスター」の歩みを、拳を交えたボクサーたちが自らの人生を振り返りながら語る。第34回ミズノスポーツライター賞最優秀賞に輝いたスポーツノンフィクション。
目次
プロローグ
第一章 「怪物」前夜(佐野友樹)
第二章 日本ライトフライ級王座戦(田口良一)
第三章 世界への挑戦(アドリアン・エルナンデス)
第四章 伝説の始まり(オマール・ナルバエス)
第五章 進化し続ける怪物(黒田雅之)
第六章 一年ぶりの復帰戦(ワルリト・パレナス)
第七章 プロ十戦目、十二ラウンドの攻防(ダビド・カルモナ)
第八章 日本人同士の新旧世界王者対決(河野公平)
第九章 ラスベガス初上陸(ジェイソン・モロニー)
第十章 WBSS優勝とPFP一位(ノニト・ドネア)
第十一章 怪物が生んだもの(ナルバエス・ジュニア)
エピローグ
著者等紹介
森合正範[モリアイ マサノリ]
1972年、神奈川県横浜市生まれ。東京新聞運動部記者。大学時代に東京・後楽園ホールでアルバイトをし、ボクシングをはじめとした格闘技を間近で見る。卒業後、スポーツ新聞社を経て、2000年に中日新聞社入社。「東京中日スポーツ」でボクシングとロンドン五輪、「中日スポーツ」で中日ドラゴンズ、「東京新聞」でリオデジャネイロ五輪や東京五輪を担当。雑誌やインターネットサイトへの寄稿も多く、「週刊プレイボーイ」誌上では試合前に井上尚弥選手へのインタビューを行っている。著書に『力石徹のモデルになった男 天才空手家 山崎照朝』(東京新聞)。本書で第34回(2023年度)ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。
講談社BOOK倶楽部
感想・その他
子供の頃からずっと、ボクシング観戦が大好きでした。最初に記憶に残っているのは、輪島功一、柴田国明、ガッツ石松といった日本の名ボクサーたちの試合です。彼らの勇敢なファイトスタイルや、テレビ越しでも伝わってくる気迫に心を奪われ、小さな自分が画面に釘付けになっていたのを、今でもはっきり覚えています。ボクシングという競技の持つ、鍛え抜かれた肉体と精神がぶつかり合う緊張感に、子供ながらに強く惹かれていたのだと思います。中学生になる頃には、具志堅用高の試合に夢中になっていました。彼のパンチの鋭さとスピード、そして何よりも「負けない強さ」は、まさにヒーローそのものでした。具志堅がリングに上がるたびに、日本中が息をのんでその戦いを見守っていた時代だったと思います。
そんな中、ある日、友達が「愛知県体育館で具志堅の防衛戦を観てきた」と興奮気味に話してくれました。さらに面白かったのは、その友達が「トイレに行ったら、隣で具志堅が用を足してた」と語ってくれたことです。まさかあの具志堅が、そんな身近なところにいたなんて、と当時の私は妙に感動したものです。友達が続けて「具志堅って(背が)小さいぞ」と言っていたのが印象的で、プロの世界で戦う選手たちは、体格以上に技術や精神力で魅せているのだと感じました。
その後、ボクシングへの関心は、自然と渡嘉敷勝男や渡辺二郎といった選手たちへと移っていきました。彼らもまた、それぞれ個性と実力を兼ね備えた選手であり、日本のボクシング界を盛り上げてくれる存在でした。
1990年代に入ると、今度はテレビ東京(私の地域では愛知テレビ)で放送されていた『世界ボクシング名勝負物語』という番組に夢中になりました。この番組では、マービン・ハグラー、シュガー・レイ・レナード、ロベルト・デュラン、トーマス・ハーンズといった、世界の伝説的なボクサーたちの試合が取り上げられており、それぞれの選手がどんな背景を持ち、どのようなドラマを経てリングに立ったのかを知ることができました。
当時はまだVHSの時代で、これらの放送をビデオテープに録画し、擦り切れるほど何度も繰り返し観たものです。特に、ハグラー、レナード、デュラン、ハーンズという“黄金の4人”が、それぞれ絶妙なタイミングで互いに拳を交えた一連の名勝負は、私の記憶に鮮烈に残っています。テクニック、スピード、駆け引き、そして意地と誇りがぶつかり合う試合は、単なるスポーツを超えた人間ドラマとして、今でも語り継がれるにふさわしいものでした。
ボクシングの魅力は、たんに勝ち負けや派手なKOシーンだけではなく、その裏にある選手一人ひとりの人生や信念が交錯するところにあるのだと、子供の頃の体験や名勝負の記憶を通して、今あらためて感じています。
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