私的評価
佐々木譲著『真夏の雷管』を図書館で借りて読みました。もうひと捻りあれば、最高に面白い作品になったのではないでしょうか。とは言え、読み始めからすぐに引き込まれ、あっという間に読み終えてしまいます。この著者の作品はどれも話がテンポよく進み、途中で止めることができず、一気読みしてしまいます。
やはり、佐々木譲の道警シリーズは面白いです。
★★★★☆
『真夏の雷管』とは
単行本として角川春樹事務所より、2017年7月に出版されました。文庫化は2019年7月です。出版社内容情報
精密工具の万引き、硝安の窃盗事件、消えた電気雷管。三つの事件がつながったとき、急浮上する真夏の爆破計画。誰が、いつ、どの瞬間に?札幌大通署・刑事課の佐伯は、生活安全課の小島百合、機動捜査隊の津久井らと共に、警官の覚悟を見せる。息もつかせぬ緊迫のクライマックス。刻限に向けて、チーム佐伯が走る!待望の書き下ろし長篇。
角川春樹事務所
内容説明
夏休み。鉄道好きで“スーパーおおぞら”に憧れる僕は、ある日出会った男性に小樽の鉄道博物館へ連れて行ってもらえることに。最高の夏になると信じていたのに、こんな大ごとになるなんて―。生活安全課の小島百合は、老舗店で万引きした男子小学生を補導した。署に連れて行くも少年に逃げられてしまう。一方、刑事課の佐伯宏一は園芸店窃盗犯を追っていた。盗まれたのは爆薬の材料にもなる化学肥料の袋。二つの事件は交錯し、思わぬ方向へ動き出す。北海道警察シリーズ第八弾。
著者等紹介
佐々木譲[ササキジョウ]
1950年北海道生まれ。79年「鉄騎兵、飛んだ」でオール讀物新人賞を受賞。90年『エトロフ発緊急電』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞を受賞。2002年『武揚伝』で新田次郎文学賞、10年『廃墟に乞う』で直木賞を受賞。16年日本ミステリー文学大賞を受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
紀伊國屋書店
感想・その他
私と佐々木譲作品との最初の出会いは、戦時三部作と呼ばれるうちの2作――『エトロフ発緊急電』と『ストックホルムの密使』でした。確か、どちらかがNHKでドラマ化されたのを観たのがきっかけだったと思います。ドラマの持つ緊迫感と、歴史の裏側を描くリアルさに惹かれ、「これは原作も読まねば」と思い、書店で本を手に取った記憶があります。三部作のもう一作『ベルリン飛行指令』については、本棚にあるにはあるのですが、これをちゃんと読んだのかどうかが思い出せません。タイトルには覚えがあるのに、内容がさっぱり浮かんでこない。読もうと思って買って、そのまま積んでしまったのかもしれません。
この道警シリーズは下記の通り何作かあります。
・うたう警官(2004年12月 角川春樹事務所)
【改題】笑う警官(2007年5月 ハルキ文庫)
・警察庁から来た男(2006年12月 角川春樹事務所 / 2008年5月 ハルキ文庫)
・警官の紋章(2008年12月 角川春樹事務所 / 2010年5月 ハルキ文庫)
・巡査の休日(2009年10月 角川春樹事務所 / 2011年5月 ハルキ文庫)
・密売人(2011年8月 角川春樹事務所 / 2013年5月 ハルキ文庫)
・人質(2013年1月 角川春樹事務所 / 2014年5月 ハルキ文庫)
・憂いなき街(2014年4月 角川春樹事務所 / 2015年8月 ハルキ文庫)
・真夏の雷管(2017年7月 角川春樹事務所 / 2019年7月 ハルキ文庫)
・雪に撃つ(2020年12月 角川春樹事務所 )
Wikipedia
一方で、佐々木譲といえば警察小説、というイメージを持っている方も多いかもしれません。私も、道警シリーズ(北海道警察シリーズ)の1作目『うたう警官(のちに「笑う警官」に改題)』から4作目『巡査の休日』まではしっかり読んでいました。どれも読み応えがあり、特に北海道という土地柄と、警察組織の硬質な空気感が相まって、独特の緊張感が漂っていたのを覚えています。
ただその後、少し間が空いてしまい、中抜けの状態で最新作をいきなり読んでしまいました。順を追って読むつもりが、気づけば途中の巻を飛ばして手にしていたというわけです。もしかすると、その間に読んでいた可能性があるのが『密売人』。本棚にあるような気もしますし、タイトルも妙に馴染みがある。ただ、内容をざっと調べてみても「あれ?これ読んだっけ?」という感じで、どうにも記憶が曖昧です。読書とは不思議なもので、熱中して読んだはずなのに、年月が経つとすっぽり抜け落ちていることも少なくありません。
道警シリーズ以外にも、佐々木譲には魅力的な警察小説があります。中でも印象に残っているのが、駐在警官・川久保篤を主人公とした『制服捜査』と『暴雪圏』の2作。これはいわゆる“都会の刑事”とは対照的な、“地方の警官”が主人公という点がユニークで、派手さはないけれど、地域に根ざした事件の描写や、人間関係の絡みが非常に丁寧で、読むたびに引き込まれました。派手なアクションはない分、人の心のひだや、田舎特有の人間模様がじわじわと効いてきます。
さらに言えば、法廷サスペンスの『沈黙法廷』という作品もあります。これは原作はまだ読めていないのですが、WOWOWでドラマ化された際に観ました。主演は永作博美。彼女の抑えた演技と、物語全体に流れる重苦しい緊張感が相まって、とても見応えのあるドラマでした。原作がしっかりしているからこそ、ああいった濃密なドラマが成立するのだろうと思います。
こうして振り返ると、佐々木譲という作家は、本当に幅の広い作風を持っています。戦時スパイもの、警察小説、法廷劇、地方の駐在もの——どれを取っても手を抜かず、物語の背景を丁寧に作り込んでくる。読んでいない作品もまだまだたくさんありますが、だからこそこれからの読書が楽しみでもあります。再読も含めて、少しずつ読み直していこうかな、そんなことをふと思ったのでした。
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