私的評価
ねじめ正一著『むーさんの自転車』を図書館で借りて読みました。物語の前半は、中学生である主人公が家庭の事情により精神的に追い詰められている様子が描かれています。孤独や不安、将来への漠然とした恐れに押しつぶされそうな主人公ですが、そんな彼の心の支えとなるのが、頼りになる男「むーさん」との交流です。むーさんはまるで何でも解決してくれる“万能な存在”のように描かれ、主人公にとっての心の拠り所となっているのが伝わってきます。
この「むーさん」の象徴として描かれているのが、彼の愛用する自転車です。昭和の中頃に製造された、シンプルで頑丈な作りの自転車が物語の随所に登場しますが、これはまさにむーさんの質実剛健さや飾らない人間性を表現しているのではないかと感じました。流行や華美に流されず、時代を超えてじっと主人公のそばにあり続けるその自転車が、むーさんの人間性の象徴ともいえる存在で、物語に味わい深い厚みを与えています。
また、この小説の特徴的な要素として、小林一茶の俳句が重要な役割を担っていることが挙げられます。物語の中で一茶の俳句が折に触れて引用され、主人公の心情や物語の情景に寄り添うように作用しています。しかし、正直に言うと、私自身は一茶の俳句が何を伝えようとしているのか十分に理解できませんでした。感受性が乏しいのか、それとも俳句の深みを感じ取る経験がまだ足りないのか、改めて自分の感受性の未熟さを痛感した次第です。
もし、この一茶の俳句と主人公の感情や物語のテーマがより深く結びついている部分を理解できていたなら、もっと深く作品を味わえたかもしれません。俳句が持つ独特の言葉の美しさや省略された情景が、小説の中でどのように主人公の成長や葛藤にリンクしているのかを感じ取ることができたなら、物語の魅力はさらに増したでしょう。
それでも、『むーさんの自転車』は、人と人とのつながりや、困難な状況にあっても支え合う心の大切さを教えてくれる温かい作品でした。むーさんの自転車が持つ懐かしさと力強さに励まされるような気持ちで、読み終えることができました。
★★★★☆
『むーさんの自転車』とは
出版社は中央公論新社、発売日は2017年8月。神戸新聞の連載小説「むーさんの背中」のタイトルを変えて出版されました。出版社内容情報
高円寺で育った正雄。実家が倒産し、米屋のむーさんと移り住んだ長野で、和菓子職人として歩み出すが…。平成版・高円寺純情商店街!主人公は高円寺の商店街で生まれ育った松野正雄、タイトルになっている米屋のむーさんは人望厚く、高円寺阿波踊りの中心で、街の顔役。二人の絆を描く人情物語で、著者の直木賞受賞作「高円寺純情商店街」のイメージを引き継いだ、「平成版・高円寺純情商店街」。また、正雄と二人で移り住む、むーさんの故郷・長野が第二の舞台で、出身の小林一茶の俳句が重要なモチーフともなっており、長野の「ご当地小説」でもある。
内容説明
長野と高円寺。二つの街で少年・正雄が大きく成長していく“平成版純情商店街”
著者紹介
ねじめ正一[ネジメ ショウイチ]
1948年東京都生まれ。青山学院大学経済学部中退。父は俳人のねじめ正也。阿佐谷パール商店街で「ねじめ民芸店」を営む。81年、詩集『ふ』で第31回H氏賞を、89年、小説『高円寺純情商店街』で第101回直木賞を、2008年、小説『荒地の恋』で第3回中央公論文芸賞を、09年、小説『商人』で第3回舟橋聖一文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
紀伊國屋書店
感想・その他

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この本で出てくる「むーさんの自転車」はこんな自転車だと思われます。大きなスタンドに鉄のブレーキレバー、そしてゴツくて大きなリアキャリアが特徴です。また、フロントフェンダーには「風切り」なる金属製のエンブレムが堂々と取り付けてありました(高級外車のボンネット中央先端にあるあれと同じものです)。

私が子供の頃はまだ鉄ブレーキばかりで、今のようなワイヤーを使うブレーキは記憶にありません。この金属棒を使ったブレーキを「ロッドブレーキ」と言うそうです。ロッドブレーキの仕組みは、ブレーキレバーを引くと、金属棒(ロッド)でつながったブレーキアーチがてこの原理で上に動き、ブレーキシューがリムに押し付けることで制動します。今のリムブレーキは、シューがリムの側面を押し付けますが、ロッドブレーキはリムの下面を押し付けます。当時、ブレーキの方式としては一般的なもので、メンテナンスフリーな割に丈夫で、実用車のブレーキとして普及しました。しかし、自転車が重くなるのと組み立てが煩雑な点がマイナスとなり、ワイヤー式に淘汰されました。
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