私的評価
映画『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』を観ました。Amazonプライムビデオでの鑑賞です。
前作の『ボーダーライン』がとても良かったので、そのスピンオフとなる今作『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』も観てみました。
前作は、麻薬戦争の最前線で揺れ動く人間たちの姿を、緊迫感あふれる描写とともに描いた社会派サスペンスの傑作。「善悪の境界って一体どこにあるんだ?」という問いを観る者に突きつけ、メキシコの麻薬カルテルの極悪非道な現実だけでなく、それを取り締まる側であるアメリカ政府の陰険さや裏工作の巧妙さまでも容赦なく描いていました。あの救いのない閉塞感、それでも目が離せないストーリー展開には、強烈な余韻が残ったのを今でも覚えています。
そして今作。前作の主人公だったFBI捜査官、エミリー・ブラント演じるケイトは登場しません。彼女は、過酷な現実の中で唯一“正義”や“良心”の光を灯していた存在だっただけに、今作ではその光が消えてしまったような、ある種の虚無感が序盤から漂います。その不在によって、物語全体がより一層ダークな色合いを帯びている印象を受けました。 誰もが目的のために手段を選ばず、信頼も共感も通用しない世界。登場人物たちは皆、どこか壊れていて、善悪の区別など最初から存在しないかのようです。
ただ、そんな重く張りつめた空気の中で際立つのが、やはり音楽です。前作同様、どこか不穏で、心の奥をザワザワと揺さぶるようなサウンドトラックは健在。静かな場面であっても音が鳴るだけで一気に緊張感が高まり、「次に何が起きるんだろう」という不安と期待が交錯します。特に低く唸るような重低音は、まるで地鳴りのように観る者の鼓動を支配します。
エミリー・ブラントがいないことを惜しむ声もあるかもしれませんが、今作は今作で、前作の世界観を継承しつつ、より深く暴力と政治のリアルに踏み込んでいく作品です。善も悪も失われた世界で、人はどこまで非情になれるのか──そんな問いを突きつけてくる、まさに“静かな地獄”のような映画でした。
★★★★☆
作品概要
監督はステファノ・ソッリマ。脚本はテイラー・シェリダン。
製作はベイジル・イヴァニク、エドワード・L・マクドネル、モリー・スミスほか。
出演はベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、ジェフリー・ドノヴァンほか。
2018年のアメリカのアクション映画です。メキシコの麻薬カルテルを描いた2015年の映画『ボーダーライン』のスピンオフ映画となります。
作品の紹介・あらすじ
解説
麻薬戦争を題材にしたサスペンスアクション『ボーダーライン』の続編。麻薬カルテルの壊滅に乗り出すCIAの特別捜査官と、彼が雇う暗殺者を映し出す。『暗黒街』などのステファノ・ソッリマが監督を務める。前作に引き続いて『エスコバル 楽園の掟』などのベニチオ・デル・トロ、『ミルク』などのジョシュ・ブローリンが出演。脚本を、前作に引き続きテイラー・シェリダンが担当した。
あらすじ
アメリカで、メキシコを経由して不法入国したと思われる人物が、15人の死者を出す自爆テロを起こす。アメリカ政府はさらなる犯行を防ぐため、CIAの特別捜査官のグレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)に、国境地帯で密入国ビジネスを仕切る麻薬カルテルをかく乱させるよう命じる。グレイヴァーは、家族を殺したカルテルに恨みを抱く暗殺者のアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)と共に麻薬王の娘をさらい、カルテル同士の抗争を引き起こそうとする。
シネマトゥデイ
感想・その他
前作『ボーダーライン』の原題は「Sicario」で暗殺者という意味なんですが、そもそも暗殺者はアレハンドロ(演:ベニチオ・デル・トロ)で、題名から言ったらこのアレハンドロが主人公と言ってもよいくらいでした。そして今作の主人公はそのアレハンドロで、これで本筋に戻ったと言ってもよいのではないでしょうか。そのベニチオ・デル・トロという俳優さんですが、1967年生まれの54歳(2022年現在)で私よりちょっと下という年齢です。以前も書きましたが、若き頃にロバート・デ・ニーロの『ザ・ファン』に出演しています。おっと思わせたのがドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』(シーズン3の23話)に出演していたことです。多分、20歳になるかならないかの時に出演したと思われます。
麻薬カルテルのボスの娘イザベル役は、イザベラ・モナーという若い女優さんで、この映画の前に出演した『トランスフォーマー/最後の騎士王』で一躍有名になったそうです。確かに美人でこの先の活躍が期待できそうです。
その二人(アレハンドロとイザベル)が、他の密入国者たちと一緒にアメリカに密入国するのですが、メキシコからの密入国者たちの心細さや恐怖、そんなのを思いっきり追体験し感じることができる映画でもあります。
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