私的評価
池波正太郎著『秘伝の声』上下巻を図書館で借りて読みました。新宿角筈村に剣術道場を構える老剣客・日影一念が、死に逝く間際に残した遺言から、二人の弟子、成子雪丸と白根岩蔵の人生が変わります。その遺言とは、剣術の秘伝書を自分の遺体とともに埋めろということでした。そんな殺生な…。いくら師匠の遺言とは言え、岩蔵のように奪って逃げてしまいたくなるのは必定かと。ここから二人の弟子のドロドロとした争いになるのか…。
池波作品はどれも安定の面白さで、この作品も例外ではありません。上下二巻という長編ですが、すらすらと読めてしまいます。
★★★★☆
『秘伝の声』とは
内容紹介〔上〕
新宿角筈村に剣術道場を構える老剣客・日影一念は、臨終の床で、なぜか二人の内弟子、白根岩蔵と成子雪丸に、自分の遺体と共に秘伝の書を土中に埋めよと言い残す。だが、剣の極意を極めたい一心の岩蔵は、遺言にそむき、秘伝書を奪って出奔する。村人たちに頼まれて道場を継ぐことになった雪丸は、岩蔵の行方を探りつつ道場を守り立て、角筈村になくてはならない人物となるが……。
内容紹介〔下〕
道場を出奔し、名を変えて諸国を巡っていた白根岩蔵は、江戸に戻って金貸しの食客となる。折しも、老中・田沼意次邸で催された剣術試合に勝った岩蔵は、見込まれて水野道場の後継者となる。それを機に、岩蔵は秘伝書を成子雪丸に返すのだが、雪丸は岩蔵を恨まず、また秘伝書を見ようとしなかった。二人の青年剣士の対照的な運命を描きつつ、著者の最後の人生観を伝えようとした長編。
著者紹介
池波正太郎[イケナミショウタロウ](1923-1990)
東京・浅草生れ。下谷・西町小学校を卒業後、茅場町の株式仲買店に勤める。戦後、東京都の職員となり、下谷区役所等に勤務。長谷川伸の門下に入り、新国劇の脚本・演出を担当。1960(昭和35)年、「錯乱」で直木賞受賞。「鬼平犯科帳」「剣客商売」「仕掛人・藤枝梅安」の3大シリーズをはじめとする膨大な作品群が絶大な人気を博しているなか、急性白血病で永眠。(1923-1990) (1923-1990) 新潮社
感想・その他
冒頭に出てくる「新宿角筈(つのはず)村に剣術道場を構える老剣客・日影一念…」という一文から、グッと時代小説の世界に引き込まれます。この“角筈村”というのが、今でいう西新宿とか歌舞伎町あたりらしくてビックリ。私、東京の地理にはあまり明るくないんですが、江戸城(今の皇居)から見ても4〜5キロくらい? 今じゃ高層ビルが立ち並ぶエリアが、江戸時代にはのどかな農村だったんですね。読んでいる間は完全に“田舎の道場”の風景を想像していたので、知ったときはちょっとした驚きでした。物語は、老剣客・日影一念とその弟子たち、そして周囲で起きるさまざまな事件を軸に展開していくんですが、さすが池波作品。渋くて骨太、それでいてどこか哀愁もある。登場人物それぞれの背景が丁寧に描かれていて、読み進めるほどに引き込まれました。
そして、池波ファンとしてうれしかったのが、あの『剣客商売』の秋山小兵衛の名前がちょこっと出てくるところ! 一瞬だけなんですけど、「おっ、小兵衛!」とテンションが上がりました。名前だけの登場なのに、なんだか池波ワールドの時間軸がつながった気がして、思わずニヤリ。できれば物語にもう少し絡んでくれたら…なんて思わなくもないけど、それでもうれしかったなぁ。
久々にしっかり時代小説を読んだ感じで、満足度高めでした。『剣客商売』が好きな人なら、絶対楽しめると思います!
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