トニー・レオン主演、映画『グランド・マスター』のあらすじ・感想など

私的評価

映画『グランド・マスター』を観ました。
Amazonプライムビデオでの鑑賞です。

下に書いてあるシネマトゥデイのあらすじのような派手な内容は、この映画にはほとんどありませんので、観る際は注意が必要です。予想とは違い、この作品は純粋なアクション映画ではなく、葉問(トニー・レオン)の人生を描いた伝記映画であり、カンフーアクションの要素が随所に散りばめられている作品でした。

私は、映画を観始める前から「後継者の座を奪い合う、すさまじい戦いの火ぶたが切られるのでは」とワクワクしていました。しかし、その期待は残念ながら裏切られました。派手なバトルシーンはほとんどなく、アクション映画特有のハイスピードの格闘は限られた場面でしか描かれません。強いて言えば、馬三(マックス・チャン)と宮若梅(チャン・ツィイー)が駅のホームで交わす、短くも印象的な対決シーンがありましたが、あくまで静かな緊張感に満ちた一瞬です。

最後まで主人公である葉問の圧倒的な戦いぶりを堪能することはできませんでしたが、その代わりに、彼の師としての哲学や、弟子との関係性、武道家としての生き様などが丁寧に描かれていました。アクションの派手さよりも、静かで美しい映像美、そして心に響く葉問の佇まいに重点が置かれた映画と言えるでしょう。

★★☆☆☆

作品概要

監督はウォン・カーウァイ。
脚本はヅォウ・ジンジー、シュー・ハオフォンほか。
製作はウォン・カーウァイ、ジャッキー・パン・イーワン。
主演はトニー・レオン、その他出演者にチャン・ツィイー、チャン・チェン、マックス・チャンほか。

2013年の中国香港映画す。詠春拳の達人として知られる武術家の葉問を描いた伝記・アクション映画です。

作品の紹介・あらすじ

解説
『ブエノスアイレス』『マイ・ブルーベリー・ナイツ』などの鬼才ウォン・カーウァイが、おそよ6年ぶりの監督作として放つ美しくも切ないアクション・ドラマ。中国拳法の中でも有名な詠春拳の達人にして、ブルース・リーの師匠としても知られる実在の武術家イップ・マンが織り成す激闘の数々を活写する。イップ・マンにふんする『レッドクリフ』シリーズのトニー・レオンを筆頭に、チャン・ツィイー、チェン・チェンといった中国圏の実力派スターが結集。ウォン・カーウァイ監督ならではの映像美がさく裂する格闘描写にも目を見張る。

あらすじ
20世紀初めの中国。北の八掛拳の宗師・宝森は、流派統一を任せられる継承者として、弟子の馬三と南の詠春拳の宗師・葉問(トニー・レオン)のどちらから選ぼうとする。六十四手の達人にしての宝森の娘でもある宮若梅(チャン・ツィイー)も候補者として手を挙げる中、馬三が宝森の命を奪うという謀反を企てる。それを機に、宝森の敵(かたき)を討つ復讐(ふくしゅう)と後継者の座を奪い合うすさまじい戦いの火ぶたが切って落とされる。

シネマトゥデイ

感想・その他

この映画、イップ・マン(葉問)を描いた伝記映画らしいのですが、実際に物語の中心に据えられているのは、どう見ても宮若梅(チャン・ツィイー)です。彼女の過去や想い、武術への情熱、そして報われぬ愛が濃密に描かれており、もはや「イップ・マンを巡る群像劇」と言うより、「宮若梅の人生ドラマ」と言っても過言ではありません。ストーリーの軸がどこにあるのか、観ている途中で混乱してしまうほどです。

そして、さらに謎を深める存在が、一線天(通称:カミソリ)という人物です。非常に印象的な登場の仕方をし、見るからに只者ではない雰囲気を漂わせていました。映画内での彼は、非常に交戦的で、八極拳の一派を統率しているカリスマのように描かれており、きっとこの後、葉問との壮絶な一騎打ちが用意されているのだろう――と、誰もが予想したはずです。

しかしながら、そんな盛り上がりの兆しを残したまま、気がつけば物語は唐突に終盤へと向かい、ついに二人の対決が実現することはありませんでした。そのままエンドロールが流れ始めたときには、「え? 結局この人、何のために登場したの?」という戸惑いしか残りませんでした。一説によれば、一線天は八極拳の名手・劉雲樵をモデルにしていると言われていますが、そうであればなおのこと、もっと深く描かれてもよかったのでは…という物足りなさが残ります。

本作は、日中戦争から1950年前後の中国および香港を舞台に、実在の武術家たちの群像を描こうとした意欲作であることは理解できます。ですが、イップ・マンの人となりや彼が武術界においてどんな立ち位置の人物なのかを知らずに観ると、どうしても物語に入り込みにくいのが正直なところです。まずは、ドニー・イェン主演の『イップ・マン』シリーズを観て、葉問という人物像をある程度理解したうえで、この作品を観るのが望ましいと思います。

そしてもう一つ残念だったのが、チャン・ツィイーのアクションシーンです。彼女はこの映画のために4年にわたって実際に武術家の指導を受け、徹底した身体作りをしたそうですが――いざ蓋を開けてみると、その動きの多くはスローモーションで処理されており、緊張感のあるリアルなアクションというよりは、演出的な「美しい舞」のように見えてしまいました。チャン・ツィイー自身の努力と存在感は十分に感じられましたが、それが純粋なアクションとして生きていたかというと、少し残念な印象が拭えません。

総じて、芸術的な映像美と情緒的な人物描写には見応えがあるものの、「イップ・マンの物語」として観た場合には、期待とは異なる方向性に戸惑いが残る一本でした。

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