私的評価
映画『トレーニング デイ』を観ました。Amazonプライムビデオでの鑑賞です。
正直なところ、数多く並んでいるラインナップの中から、特に深い理由もなく、何となく選んだ作品でした。2001年公開の映画ということもあり、「20年以上前の古い警察映画か」という程度の認識で、あまり大きな期待を抱かずに再生ボタンを押したのです。
しかし、軽い気持ちで観始めたこの選択が、結果的には大きな驚きと充実した映画体験をもたらしてくれました。冒頭からロサンゼルスの街を舞台に描かれる緊張感あふれる日常、巧みに張り巡らされたサスペンス、そしてダンゼル・ワシントン演じるアロンゾの存在感は圧倒的で、スクリーンに釘付けになりました。
エンドクレジットが流れるまでの約2時間、常に「次に何が起こるのか」というハラハラ感が持続し、観終わった後にはまるで自分もその危険な一日に巻き込まれたかのような感覚が残ります。単なる警察映画の枠を超え、善と悪、正義と欲望、倫理観の揺らぎをリアルに描いた、奥深い作品でした。「かなり面白かった」という言葉がぴったりで、観る前の軽い気持ちを恥ずかしく思うほどの充実感を味わいました。
★★★★☆
作品概要
監督はアントワーン・フークア。脚本はデヴィッド・エアー。
製作はロバート・F・ニューマイヤー、ジェフリー・シルバー。
製作総指揮はブルース・バーマン、デイヴィス・グッゲンハイム。
出演者はデンゼル・ワシントン、イーサン・ホーク、スコット・グレンほか。
2001年に公開されたアメリカのサスペンスアクション映画です。新人刑事として憧れのカリスマ刑事とコンビを組んだ初日、その訓練日(トレーニングデイ)を描いています。
作品の紹介・あらすじ
解説
アメリカの警官に蔓延する汚職や薬物常用、過剰な暴力は、都会の犯罪最前線にどのような戦いをもたらしているのか? ロス市警を舞台に、警官の腐敗とそれをとりまく社会が生み出す犠牲をリアルに描きだす衝撃の社会派ドラマ。『グローリー』で助演男優賞を受賞しているデンゼル・ワシントンが本作ではいままでの正義感あふれるヒーローとはうってかわり、暗い、複雑な感情を秘めたダークヒーローをリアルに熱演する。彼の前で戸惑い、恐れる正義感の強い若い刑事イーサン・ホークの繊細な演技も見事。まるで戦争映画を撮るかのような、リアルなカメラワークは息をもつかせぬほどの迫力だ。
あらすじ
ロサンゼルス市警に勤務するベテラン麻薬捜査官アロンゾ(デンゼル・ワシントン)に憧れる、正義感に燃える新人警察官ジェイク・ホイト(イーサン・ホーク)は、自分をアロンゾにアピールしようと意気揚々としていた。しかし、アロンゾと行動を共にするジェイクに戦慄の現実が待ちうける……。
シネマトゥデイ
感想・その他
映画を観始めてすぐに「ベテラン刑事役のこの人って、デンゼル・ワシントンじゃない?」と思いました。Amazonプライムビデオのサムネイル画像では、若々しいイーサン・ホークの顔だけが大きく映し出されていたため、完全にイーサン・ホーク主演の映画だと思い込んでいました。そのため、スクリーンに現れた渋い中年男性を見て「あれっ?」という困惑の気持ちが湧き上がりました。さらに混乱を招いたのは、映画の中のデンゼル・ワシントンの顔が、私の記憶にある現在の彼とは明らかに異なっていたことです。20年以上も前の作品ということもあり、まだ40代前半だった頃の若々しい表情で、今一つ確証が持てませんでした。気になって仕方がなくなり、一度映画を止めて、プライムビデオの作品詳細ページを改めて確認してみました。すると、キャストの一番最初に堂々とデンゼル・ワシントンの名前が記載されているではありませんか。主役は紛れもなくデンゼル・ワシントンだったのです。イーサン・ホークは新人刑事役で、むしろ共演者の立ち位置だったのです。
現在のロサンゼルスの治安状況がどうなっているかは定かではありませんが、この映画に描かれているような、警察官でさえも一人では近づくことを躊躇するような危険なエリアが実在するのでしょう。映画の中で描かれる南ロサンゼルスの一部地域は、まさにそのような場所として表現されています。 実際のところ、このようなエリアは一般市民が普通に歩いているだけでも、強盗、恐喝、薬物犯罪などの凶悪犯罪に巻き込まれる危険性が極めて高く、文字通り命の保証がないような環境として描かれています。ギャングの縄張り争いや麻薬取引が日常的に行われ、銃声が響くのも珍しくない。観光客はもちろん、地元の住民でさえも細心の注意を払わなければならない、間違っても好奇心だけで足を踏み入れてはいけない危険地帯なのです。
しかし、この映画の真の魅力は、単なる犯罪アクションを超えたところにあります。一見すると法と秩序から最も遠い存在に見える危険地域の住民たちが、物語のクライマックスで新人刑事ジェイク(イーサン・ホーク演じる)を助けるシーンは、非常に印象深いものでした。 彼らは確かに社会の周縁に追いやられ、時には法に背く行為に手を染めることもある人々です。しかし、その心の奥底には、正義とは何か、人として何が正しいのかを判断する確固とした価値観が残っています。腐敗した警察官アロンゾ(デンゼル・ワシントン演じる)の横暴に立ち向かう若い刑事に対して、彼らは社会的地位や立場を超えて手を差し伸べるのです。
このあたりに、この映画が単なる警察映画を超えた深みを持つ理由があります。表面的には善悪が曖昧に見える世界の中で、本当の善とは何か、真の悪とは何かが鋭く問われています。同時に、人と人との間に生まれる義理や信頼関係の大切さも丁寧に描かれています。 法を守る立場にいながら私腹を肥やすアロンゾと、社会からは見放されながらも筋を通そうとする街の住民たち。この対比を通して、真の正義とは制服や肩書きではなく、一人一人の心の中にあることを教えてくれる作品でした。20年以上前の映画でありながら、現代にも通じる普遍的なメッセージが込められた、見応えのある傑作だったと思います。
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