池部良著『天丼はまぐり鮨ぎょうざ 味なおすそわけ』を読んだ感想


私的評価

池部良著『天丼はまぐり鮨ぎょうざ 味なおすそわけ』を読みました。
図書館で借りました。

永六輔さんと矢崎泰久さんの共著である『ふたりの品格』の中で、永さんが面白いと紹介していたのがこの本でした。図書館で検索してみると蔵書としてあったので借りて読んでみましたが、読み終わってしまうのが惜しいくらい面白いエッセイ集でした。特に池部良さんの父親(風刺・風俗漫画家の池部鈞)は、いちいち言うことにうんちくがあり、かつ面白い、そして強烈な個性の持ち主であり、「生粋の江戸っ子(自称)」で、「昭和初期のおやじ」でした。映画や本に出てきた「誰か」に似ている、そう思い続けながら読んでいましたが、最後まで誰だか思い出せませんでした。

★★★★★

『天丼はまぐり鮨ぎょうざ 味なおすそわけ』とは

内容
池部良の、さりげなく人生を織り込んだ痛快な食物誌エッセイ。ちらしずし、そうめん、秋刀魚、餅など春夏秋冬別に関連のある食材を題材とし、それにまつわる思い出を綴る。番外として戦前・戦後のひるめしも収録。

目次
春(芹と木の芽;おみおつけ ほか)
夏(そうめん;西瓜 ほか)
秋(秋刀魚;とうもろこし ほか)
冬(シチュー;こんにゃく ほか)
番外(ひるめし戦前;ひるめし戦後)

著者等紹介
池部良[イケベリョウ]
1918年2月11日、東京大森に生れる。41年、立教大学英文科卒業後、東宝映画に入社して「闘魚」で映画デビュー。翌年、陸軍に応召され、南方のハルマヘラ島で終戦を迎える。復員後は文芸映画を中心に活躍。「青い山脈」「現代人」「雪国」「暗夜行路」「乾いた花」「昭和残侠伝」をはじめ出演作は200本近くに及ぶ。91年、『そよ風ときにはつむじ風』で日本文芸大賞受賞、エッセイストとしても高い評価を得る。2010年10月8日逝去。

紀伊國屋書店

感想・その他

「おみおつけ」の章に出てきた「おつけ」という言葉。そう言えば、私が子供の頃の我が家でも、味噌汁のことを「おつけ」と呼んでいました。朝食の食卓で母が「おつけ、冷めないうちに飲みなさい」と声をかける光景が、いまでもぼんやりと浮かびます。それが、知らないうちに、いつの間にか「味噌汁」という呼び方に変わってしまっていて、気が付けば40年以上も「おつけ」という響きを耳にすることがありませんでした。今回本を読み、その文字を目にした瞬間、胸の奥にしまい込んでいた思い出が一気によみがえり、涙が出るほど懐かしく感じました。
また、出てきた言葉の中で「うんこ座り」も印象的でした。子供の頃、公園や駄菓子屋の前で、友達とよく「うんこ座り」をして話し込んでいたものです。今ではあまり耳にしない言葉ですが、その響きさえ懐かしい。

そしてもうひとつ、思い出したのが母の好みでした。私の母は俳優の池部良さんが大好きで、私が小さい頃からその名前を口にしていたのを覚えています。私にとって池部良さんといえば「昭和残侠伝」シリーズの人です。映画の最後、高倉健さんとともに敵陣に乗り込み、義理と人情を胸に抱えながらも、毎回命を落とす。その姿が幼い私には強烈で、「どうして池部さんはいつも殺されてしまうんだろう?」と不思議に思っていました。ところが最近Wikiを読んで、その理由を知り、なるほどと腑に落ちました。出演の条件として、池部さん側から「入れ墨を入れないこと」「毎回殺されること」「ポスターでの露出を控えること」といった要望があったというのです。美学やこだわりを貫く俳優だったのだと、改めて感心しました。

さらに本を読み進めると、池部良さんの背景にも興味をひかれました。父親は風刺漫画家であり洋画家でもある池部鈞。地元では「先生」と呼ばれるほどの存在で、その息子である池部良さんは、近所の人から「ぼっちゃん」と呼ばれていたそうです。母方の親族にも芸術家が多く、母の兄は著名な画家・漫画家・文筆家である岡本一平。そして、その長男、つまり池部さんにとっての従兄が「芸術は爆発だ」で知られる岡本太郎です。こうしてみると、池部良さんの芸術的な素養や独特の雰囲気は、血筋から自然に受け継がれたものなのかもしれません。

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