私的評価
WOWOWの連続ドラマ『黒書院の六兵衛』を観ました。全6話、レンタルDVDでの鑑賞です。
私はまず原作小説を読んでからドラマに臨んだため、どうしても映像化された作品には物足りなさを感じてしまいました。特に残念に思ったのは、加倉井隼人(上地雄輔)の人物像の描き方です。原作でイメージしていた加倉井とは少し異なり、私の頭の中にあったキャラクター像とは違う印象を受けました。キャラクターの性格や立ち振る舞い、内面の描写がもう少し丁寧であれば、より原作の雰囲気を活かせたのではないかと思います。
一方で、吉川晃司が演じた的矢六兵衛は、原作で描かれたイメージそのままに画面に登場しており、違和感なく物語に入り込むことができました。的矢六兵衛の存在感や凛とした佇まいが、ドラマ全体の引き締め役としてしっかり機能していた点は見事だと思います。
もちろん、原作を読んでいなければ、ドラマ単体としても十分に楽しめる作品だったと思います。映像ならではの迫力や、俳優たちの演技、テンポの良いストーリー展開は、観る者を飽きさせません。原作を知っている私にとっては比較してしまう部分もありましたが、原作未読の方には、サスペンスと人間ドラマの面白さを存分に味わえるドラマでしょう。
★★★☆☆
作品概要
原作は浅田次郎の「黒書院の六兵衛」(文春文庫刊)。監督は李闘士男。
脚本は牧野圭祐。
主演は吉川晃司、上地雄輔、その他出演者には芦名星、寺島進、竹内力、田中泯ほか。
2018年夏にWOWOWで放送されました。原作である「黒書院の六兵衛」は、2012年5月から2013年4月まで日本経済新聞朝刊に連載小説です。ドラマの舞台は、江戸城不戦開城の江戸城内。官軍側先遣隊として尾張藩下・加倉井隼人が向かった江戸城には…。
作品の紹介・あらすじ
解説
浅田次郎による日本経済新聞連載の時代小説をドラマ化。江戸城不戦開城の史実をベースに、時代の波に取り残されそうになりながらも、自らの信義を通し一切口を利かぬまま江戸城内に居座り続ける将軍直属の御書院番士・的矢六兵衛と、官軍側に付いた尾張藩から遣わされ六兵衛排除の任を負ってしまった下級藩士・加倉井隼人との交情を、熱く描く。体制のリーダーではなく、瀬戸際の現場で身を尽くす2人の姿にこそ、世相や組織の空気に翻弄されながらも、できれば平和に真っすぐに生きたいと願う大多数の日本人の深い共感が集まることだろう。
的矢六兵衛役には、希代のロックスターにして俳優としてもカリスマ的存在感を示してきた吉川晃司。実に17年ぶりの主演。尾張藩士・加倉井隼人役は、歌手・タレントとして活躍しながら俳優としても本格派の輝きを見せる上地雄輔が演じる。監督は映画『神様はバリにいる』『ボックス!』など数々の熱い男のロマンを写し取ってきた李闘士男、脚本は「新参者」の牧野圭祐。
あらすじ
慶応4年、幕府と新政府の談判が成り、江戸城は不戦開城と決した。官軍側についた尾張藩の気弱な下級藩士・加倉井隼人(上地雄輔)は、城の引き渡しを支障なく進めるための先遣として、城内に検分に入る。
しかし、困ったことにただひとり、てこでも動かぬ旗本がいた。彼の名は的矢六兵衛(吉川晃司)。将軍直属の警護隊・御書院番の番士だった。六兵衛は黙って正座したままで、動くのはほぼ用を足すときだけ。
勝海舟(寺島進)と西郷隆盛(竹内力)の約束により、近々に御所となる予定の城内での悶着は厳禁。つまり、力ずくでは六兵衛を退去させられない。居座りの意図を探る加倉井は、この六兵衛は本物ではなく六兵衛の名をかたる偽者だと知り、ますます混乱する。
だが、しばらく時を過ごすうちに、古式ゆかしい貫禄でたたずむ六兵衛に対し、加倉井の胸裏には得体の知れぬ共感が湧いてくる。果たして六兵衛の居座りの理由とは。その正体とは。
そして、天皇入城が迫る中、加倉井はどう手を打つのか。
連続ドラマW
感想・その他
原作本の中では、六兵衛の所作が「武士の鑑」として丁寧に描かれています。私自身も小説を読みながら、六兵衛の立ち居振る舞いや礼儀作法を思い描き、ドラマでどのように再現されるのかを非常に楽しみにしていました。しかし、ドラマを観て驚き、少し違和感を覚えたのは、最後に六兵衛が下城する際の廊下での歩き方です。なんと摺り足だったのです。最初は「え、これでいいの?」と思いましたが、調べてみると、これは武士の正式な作法というよりも、袴を着用した際の自然な歩き方だということが分かりました。現代人の歩き方でそのまま歩くと裾を踏んで転んでしまうため、裾を踏まないように慎重に歩くと、必然的に摺り足の動作になるのだそうです。ちなみに、六兵衛以外の登場人物は普通に歩いていたので、より六兵衛の立場や動作の特別さが際立って見えました。
また、六兵衛が箸を手にするまでの所作も非常に印象的でした。箸を持つ前の手の位置、姿勢、呼吸の整え方までが丁寧に描かれており、見ているだけで作法の奥深さを学べるような気持ちになりました。こうした細部の描写こそが、六兵衛という人物の品格や武士としての教養を際立たせており、原作の世界観をドラマでうまく再現していると感じます。
こうして所作一つ一つに注目して観ることで、ドラマの細かい演出や歴史的背景への理解が深まり、より一層作品に引き込まれる体験となりました。
コメント