北川景子主演、映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』のあらすじ・感想な ど

私的評価

映画『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』を観ました。
レンタルDVDでの鑑賞です。

原作は中山七里の人気ミステリー小説で、タイトルからも分かるとおり“ドクター・デス”という人物が関わる安楽死事件を題材にしています。テーマは非常に重く、そして現代社会においても議論が絶えない「安楽死」という問題。生命の尊厳や医療倫理、家族の葛藤など、扱い方次第で深く切り込めるテーマだけに、観る前から「社会派サスペンスとしてどこまで踏み込んでくれるのか」と期待していました。

実際、映画の前半はその期待に応えるように、安楽死をめぐる葛藤や善悪の境界線を描こうとする真面目なトーンで進みます。捜査を担当する刑事たちの緊張感あるやり取りや、患者や家族の複雑な心情が丁寧に描かれ、「これはなかなか骨太な社会派作品になるかもしれない」と感じさせてくれました。

しかし、後半になると雰囲気は一変。せっかくのテーマ性が薄れ、事件の謎解きや展開がどこか安易で、サスペンスというよりはお約束の刑事ドラマ的な印象になってしまいます。犯人像や動機の掘り下げも浅く、ラストにかけては「え、こんな終わり方?」と感じる場面もありました。あれだけ重厚なテーマを掲げていただけに、「もっと突き詰めたストーリーにできたのでは」という物足りなさが残ります。

全体として、「安楽死」という倫理的にセンシティブで考えさせられる題材を扱いながらも、その可能性を生かし切れず、後半では普通のサスペンス映画に埋もれてしまった印象でした。良い素材を持ちながら、調理しきれなかった料理のような感覚とでも言えばいいでしょうか。「なにかもっとやりようがあったのでは…」という惜しさが強く残る作品でした。

★★☆☆☆

作品概要

監督は深川栄洋。
原作は中山七里の「ドクター・デスの遺産」。
脚本は川崎いづみ。
製作は沢桂一、池田宏之、森田圭、菊川雄士、藤本鈴子、安部順一ほか。
出演は綾野剛、北川景子、岡田健史、石黒賢、柄本明、木村佳乃ほか。

2020年制作の日本映画です。原作は、「さよならドビュッシー」の中山七里による刑事犬養隼人シリーズの「ドクター・デスの遺産」です。130人もの患者を安楽死させた実在のアメリカの医師ジャック・ケヴォーキアンをモデルに描かれるクライム・サスペンス映画です。

作品の紹介・あらすじ

解説
「さよならドビュッシー」などで知られる作家・中山七里の小説「ドクター・デスの遺産」を原作にしたクライムサスペンス。連続不審死事件を追う刑事たちと犯人の攻防が描かれる。メガホンを取るのは、『サクラダリセット』シリーズなどの深川栄洋。『閉鎖病棟 -それぞれの朝-』『影裏』などの綾野剛が主演を務め、『ヒキタさん! ご懐妊ですよ』『ファーストラヴ』などの北川景子らが共演する。

あらすじ
警視庁捜査一課の敏腕刑事である犬養隼人(綾野剛)は、バディである高千穂明日香(北川景子)と共に終末期患者が次々と不審死を遂げる事件を追う。捜査を進める中、依頼を受けては終末期患者に安楽死をさせる「ドクター・デス」と呼ばれる謎の医師がいることが判明。苦しませることなく、被害者たちの命を奪っていくドクター・デスの目的と正体を探る犬養と高千穂だったが、腎臓病に苦しむ犬養の娘・沙耶香が、ドクター・デスに自分の安楽死を依頼してしまう。

シネマトゥデイ

感想・その他

綾野剛さんが演じるのは警視庁捜査一課の敏腕刑事――と公式には紹介されているのですが、この映画を観て「なるほど、これが敏腕か」と思える瞬間は正直ほとんどありませんでした。むしろ「どうしてそんな行動を?」と首をかしげる場面の方が目立ちます。とくに終盤、単身で犯人の潜伏先に乗り込み、案の定あっさり捕まってしまう展開は、冷静さや判断力が求められる刑事としてはお粗末すぎて、緊張感よりも呆れが先に立ってしまいました。作品全体を通してキャラクターの魅力が生かされきれず、綾野剛さんの演技力を知っているだけに余計に惜しく感じます。

一方で、この映画で際立っていたのが木村佳乃さんの存在感です。彼女が演じる狂気じみた役どころは、とてもハマっていました。美しい容姿と上品な雰囲気を持ちながら、その内面に潜むサイコパス的な一面を垣間見せる――そのギャップが観客をゾクリとさせます。最近で言えばドラマ『僕のヤバイ妻』で見せた、笑顔の裏に潜む恐怖や計算高さを思い出させるような芝居でした。あの整った顔立ちで、ふと見せる冷酷な目つきや不穏な仕草は、まさに背筋が凍るほど。普段、バラエティ番組などで見せる明るく飾らない姿からは想像できないだけに、その豹変ぶりがまた魅力を際立たせています。

木村佳乃さんを初めて知ったのは、1997年に放送された東芝日曜劇場『理想の上司』でした。まだ新人らしい初々しさがあり、松雪泰子さん、石田ゆり子さんといった実力派女優に囲まれ、三番手的な立ち位置でしたが、それでも光るものがありました。当時は「きれいな新人さんだな」という程度の印象でしたが、まさか20年以上経った2021年の今も第一線で活躍し、演技の幅をここまで広げる女優になるとは想像もしていませんでした。時を経て磨かれた彼女の演技は、キャリアの積み重ねを感じさせるものであり、今回の映画でも確かな存在感を放っていたと思います。

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