私的評価
浅田次郎著『長く高い壁』を図書館で借りて読みました。非常に面白く、一気に読み進めてしまいました。本作は、浅田作品によく見られる登場人物のインタビュー形式で物語が展開していきます。次々に明かされる情報の中で、誰が嘘をついているのか、誰が真実を語っているのかを考えながら読むのがとても楽しく、自然と話の中に引き込まれてしまいます。
また、舞台となる万里の長城の描写が非常に印象的で、もし実際に訪れたことがあれば、さらに想像力を膨らませながら読めたのではないかと思います。ちなみに私はまだ一度も現地を訪れたことはありませんが、それでもその雄大さや歴史の重みを感じながら物語に没頭できました。
★★★★☆
『長く高い壁』とは
内容説明
1938年秋。従軍作家として北京に派遣されていた小柳逸馬は、突然の要請で前線へ向かう。検閲班長・川津中尉と赴いた先は、万里の長城・張飛嶺。そこでは分隊10名が全員死亡、戦死ではないらしいという不可解な事件が起きていた。千人の大隊に見捨てられ、たった30人残された「ろくでなし」の小隊に何が起きたのか。赤紙一枚で大義なき戦争に駆り出された理不尽のなか、兵隊たちが探した“戦争の真実”を解き明かす、極限の人間ドラマ。
著者等紹介
浅田次郎[アサダ ジロウ]
1951年東京生まれ。『地下鉄(メトロ)に乗って』で吉川英治文学新人賞、『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞、『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞、『お腹召しませ』で司馬遼太郎賞と中央公論文芸賞、『中原の虹』で吉川英治文学賞、『終わらざる夏』で毎日出版文化賞を受賞。2015年紫綬褒章を受賞。『蒼穹の昴』『シェエラザード』『わが心のジェニファー』『獅子吼』など著書多数。
紀伊國屋書店
感想・その他
久しぶりに図書館の本棚から手に取り、借りた本です。借りる際には、余裕で二週間の延長ができるだろうと思っていたのですが、なぜか延長ができませんでした。その理由を見て納得。なんと、予約数が10を超えていたのです。実は、この本は以前から本棚で何度も目にしており、何回か借りようとしたこともありましたが、そのたびに止めていました。それがなぜ急に人気になったのかと考えると、少し前に新聞の広告欄でこの本の題名を見かけたことが関係しているように思えます。どうして新聞に広告が載ったのかといえば、文庫本として新たに出版されたからです。おそらく広告を見て興味を持ち、読んでみたいと思った人が図書館で予約したのでしょう。
さて、この本の題名「長く高い壁」とは一体何を意味するのでしょうか。もちろん字面通りには万里の長城を指しているのでしょうが、物語の中ではそれだけにとどまらない象徴として描かれているように感じました。ところどころで示される日本と中国の文化や価値観の違い、歴史的背景を考えると、「長く高い壁」とは日本が越えられない壁、中国そのものを指しているとも読み取れます。
読み進めるうちに、あの日中戦争には本当に大義があったのか、人間の本性とは何か、といった問いが自然と頭に浮かびました。ただの歴史小説ではなく、過去の出来事を通して現代に生きる私たちに問いかける、重みのある一冊だと思います。
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