フランソワ・シヴィル主演、映画『ウルフズ・コール』のあらすじ・感想など

私的評価

映画『ウルフズ・コール』を観ました。
レンタルDVDでの鑑賞です。

私はもともと潜水艦を題材にした作品が大好きで、軍事スリラー系の映画には目がありません。ですので、この作品を店頭で見つけたときには、予告や解説をほとんど確認せずに、勢いで手に取ってしまいました。潜水艦映画と聞いただけで、あの独特の閉塞感、ソナー音が響く緊張感、そして見えない敵との心理戦を期待してしまうのです。

映画冒頭、謎めいた潜水艦が登場した瞬間から心をつかまれ、「これは面白くなるぞ」とワクワクしました。序盤は特にソナー員の緊張感あるシーンが印象的で、海の闇に潜む「見えない敵」を感じさせてくれます。しかし物語の中盤に差しかかると、どうにもテンポが落ち、緊迫感が薄れてしまい、少々中だるみを感じました。とはいえ終盤にかけては再び盛り上がりを見せ、観客を引き込む展開になっていきます。

ただ、題名にもなっている「ウルフズ・コール(狼の遠吠え)」が一体何を意味していたのか、最後まで腑に落ちませんでした。もっと明確に作品全体を貫くキーワードとして描かれていれば、より印象深かったのではないでしょうか。また、序盤に提示された謎の潜水艦との本格的な対決が描かれることを期待していたのですが、そこは肩透かしを食らった気分です。

潜水艦映画としての緊張感やサスペンス性は確かに楽しめましたが、題名や設定から想像したスリルを最後まで味わえなかったのが惜しいところ。それでも、潜水艦映画ファンとしては一度観て損はない一本だと思います。

★★★☆☆

作品概要

監督、脚本はントナン・ボードリー。
製作はジェローム・セドゥ、アラン・アタルほか。
出演はフランソワ・シヴィル、オマール・シー、マチュー・カソヴィッツほか。

潜水艦をテーマとした2019年のフランス映画です。フランス海軍の潜水艦内を舞台にした映画です。注目が集まる若手俳優や演技派俳優による臨場感あふれる作品となっています。監督は外交官出身でコミック作家であるアントナン・ボードリーで、脚本も兼任しています。

作品の紹介・あらすじ

解説
潜水艦の中で優れた聴覚を武器に任務をこなす、フランス軍の特殊分析官の活躍と葛藤を描くアクションサスペンス。記録にない音に遭遇した主人公が、謎の音の正体を突き止めようと奮闘する。『私の知らないわたしの素顔』などのフランソワ・シヴィルや『最強のふたり』などのオマール・シー、『負け犬の美学』などのマチュー・カソヴィッツ、『永遠のジャンゴ』などのレダ・カテブなどが出演。監督をアントナン・ボードリーが務める。

あらすじ
フランス軍に所属するシャンテレッドは、人並み外れた聴覚の持ち主で、潜水艦に乗務する特殊分析官としてわずかな音から敵の正体や動向を探る任務に当たっていた。しかしシリア沖での潜行任務中、“狼の歌”のようなソナー音を放つ謎の艦艇の識別を誤ってしまう。任務後、彼は狼の歌の解析に必死になって挑む。そして、その艦艇が再び現れる。

シネマトゥデイ

感想・その他

主演を務めたフランソワ・シヴィルは、フランスでは若手の有望株と評価されている俳優の一人だそうですが、正直なところ世界的な知名度という点では、まだまだこれからといった印象を受けました。彼の出演作をいくつか調べてみても、私自身が観たことのある作品はほとんどなく、今回が初めてしっかりと彼の演技に触れる機会でした。ただ、本作で見せた緊迫感のある演技や感情を抑え込んだ表現には光るものがあり、今後ハリウッド作品などにも進出していけば、一気に名前が知られる存在になるのではないかと期待させてくれます。

一方で、国際的に既に名の知れた俳優としては、オマール・シーが出演していました。彼といえば、やはり大ヒット作『最強のふたり』で演じた陽気で人懐っこい青年役が強く印象に残っています。あの作品でフランス版アカデミー賞とも言われるセザール賞を2012年度に受賞し、一躍国際的なスター俳優の仲間入りを果たしました。しかしながら、今回の『ウルフズ・コール』を観ている間は、正直「どこに出ていたのか?」と気付かないほど役柄が控えめで、後から知って驚かされたほどです。

そして、本作の中で最も印象に残ったのは、核兵器使用に関するフランス海軍の描写でした。大統領から核攻撃命令が一度下されると、それは絶対に撤回されないという恐ろしいシステムが描かれていたのです。命令を受け取った潜水艦はすぐに外部との通信を遮断し、途中でいかなる情報が入っても無視する――これは敵対勢力による電波妨害や命令の改ざんを防ぐため、という理屈だそうです。しかし、もし現実にそのような仕組みが存在するのだとしたら、誤報や状況の変化に対応できず、人類全体を破滅に導きかねない重大な欠陥とも言えるのではないでしょうか。国家の安全保障における究極の命令系統の在り方を考えさせられると同時に、フィクションであったとしても背筋が凍るような設定でした。

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