私的評価
海外連続ドラマ『HAPPY VALLEY 復讐の町』(シーズン1・2)を観ました。A mazonプライムビデオでの鑑賞です。
正直に言うと、最初にAmazonプライムで表示されたタイトルや、タイトルバックに映し出される“中年の女性警官”の姿を見ただけでは、恐らく手を伸ばすことはなかったと思います。派手さのない印象で、どうしても地味に感じられてしまったからです。ですが「BBC制作」という一言が気になり、試しに観てみることにしました。結果は大正解。想像を遥かに超える骨太なドラマに引き込まれました。
物語は田舎町を舞台に、警官キャサリンが数々の事件に挑む姿を中心に描かれていきます。ただ単に事件を追い、解決していくというお決まりの流れではありません。登場人物同士の複雑に絡み合う人間関係や、心の奥底に抱える葛藤や痛みが丁寧に描かれており、そのリアルさが視聴者を強く惹きつけます。キャサリン自身の家庭事情や過去の出来事が物語に重く影を落とし、事件の行方と個人の人生が巧みに交錯していく展開は、ただの刑事ドラマの枠を超えた深みを持っています。
一話ごとの緊張感、静かに積み重なっていく不安感、そして時折見える希望や人間らしい温かさ。これらが絶妙なバランスで盛り込まれており、観終えた後もしばらく余韻が残る作品でした。BBCならではの重厚でリアリティに富んだ作り込みに感嘆するばかりです。
結論として、この『HAPPY VALLEY 復讐の町』は単なる海外刑事ドラマを超えた、社会派ヒューマンドラマとも言える名作だと思います。決して派手ではありませんが、じわじわと心に響く力を持っています。かなりおすすめできる作品です。
★★★★★
作品概要
製作総指揮・脚本はサリー・ウェインライト。出演はサラ・ランカシャーシ、ヴォーン・フィネラン、チャーリー・マーフィー、ジェームズ・ノートンほか。
イギリスBBC制作のサスペンスドラマです。シーズン1は2014年4月、シーズン2は2016年2月に放送されました。
このドラマはBAFTAテレビ・アワードで、2015年にはシーズン1で最優秀ドラマシリーズ、2017年にはシーズン2で最優秀ドラマシリーズと、サラ・ランカシャーの主演女優賞を受賞しました。また、英TV Choice 誌主催のテレビ・チョイス・アワード2016でもサラ・ランカシャーは最優秀女優賞を受賞しました。
作品の紹介・あらすじ
シーズン1
アルコール中毒、薬物中毒、10代での妊娠があふれる街、ハッピー・バレー。キャサリン・ケイウッドはその小さな街で巡査部長をしている。ある時、娘を自殺に追いやったとキャサリンが信じている男、トミー・リー・ロイスが出所したと知り、彼女の生活は一変する。同じくハッピー・バレーに住むごく平凡な会計士ケビン・ウェザリルは、仕事で正当な評価をされず十分な給料が支払われていないことに不満を抱えていた。ケビンは娘を私立の良い学校に入学させるため、学費を払えるだけの給料に昇給してほしいと要求するが、裕福な上司ネビソンに拒否され、彼の中で何かがぷつりと切れてしまう。ケビンは出来心から地元の麻薬密輸組織のボス、アシュリーにネビソンの娘を誘拐し、身代金を要求するよう依頼する。しかし、アシュリーが誘拐作戦にトミーを巻き込んだことから、物事は危険な方向に進み始める……。
シーズン2
アン誘拐事件を始めとする一連の事件の容疑者としてトミー・リー・ロイスが逮捕されてから18か月が過ぎた。ハッピー・バレーで巡査部長をするキャサリン・ケイウッドは任務中、腐敗がひどく、性別すら特定できない死体を発見する。DNA鑑定の結果、死体がなんとトミーの母親リン・デューハーストだったことが判明する。さらに、同じ手口の事件が連続で発生。キャサリンは孫のライアンに接触しようとするリンに対して脅迫めいた留守電を残しており、容疑者として捜査から外されてしまう。
一方、捜査課のジョンは愛人関係にあるビッキーと別れる決意をするが、逆に彼はビッキーの罠にはまり、脅迫される羽目に。刑務所のトミーのもとへ謎の女フランシスが面会に現れ、トミーはキャサリンへの恨みをぶちまける。キャサリンと家族に何かが起ころうとしていた……。
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感想・その他
題名である「HAPPY VALLEY」は、物語の舞台となる架空の町の名前です。しかしその名とは裏腹に、決して「ハッピー」とは言い難い場所。薬物が蔓延し、アルコール中毒者が昼夜を問わず徘徊するという荒んだ田舎町の姿が描かれています。その対比がまず印象的で、皮肉を込めたタイトルの意味を考えさせられます。主人公は女性警官キャサリン。家庭に問題を抱え、さらに孫を引き取って育てるという重荷を背負いながらも、毅然と警官として職務を果たし続ける姿が胸に響きます。このキャサリンを演じているのが、イギリスの名女優サラ・ランカシャー。2021年当時で御年56歳、奇しくも私と同じ1964年生まれだと知ったときには、不思議な親近感が湧きました。年齢を重ねてなお力強く、そして等身大の女性像を演じきる姿に大きな共感を覚えます。
一方、シリーズを通してキャサリンの因縁の相手となるのが、犯罪者トミー・リー・ロイス。その役を演じるのはジェームズ・ノートンです。彼はすでに多くの作品で存在感を放っており、私自身もドラマ『McMafia – マクマフィア』で彼の主演を観ていました。また、2019年の映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』でも主役を務めており、その演技力と存在感から、今後ますます飛躍すること間違いなしの俳優だと感じています。
近年はイギリスのドラマをよく観るようになったのですが、不思議と薬物依存やアルコール依存の問題が繰り返し描かれることに気づきます。単なるドラマ上の演出なのか、それとも社会の現実を反映しているのかは分かりません。しかし、緑豊かで牧歌的な田舎町の風景からは想像もつかない治安の悪さ、そして救いのない重苦しい空気感が漂います。さらに画面にはほとんど青空がなく、曇天の下で繰り広げられる物語が、より一層の陰鬱さを強調しています。
そんな作品を観ていると、やはり日本という比較的安全で平穏な国に生まれ育ったことをありがたく思わずにはいられません。イギリスドラマの魅力は、そのリアリティや社会問題を真正面から描く力にあるのだと思いますが、それと同時に、私たちの暮らしがいかに恵まれているかを改めて考えさせられるのです。
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