クロサワ コウタロウ著『珍夜特急』を読んだ感想

私的評価

クロサワ コウタロウ著『珍夜特急』を読みました。

2021年1月4日でサービスが終了してしまった「Kindleオーナーライブラリー」(KindleまたはFire端末を所有し、Amazonプライムに加入していれば毎月1冊無料で本を読めるサービス)を利用し、Fire 7で読み進めました。結果として、読み終えるまでに約6か月かかり、最後の第6巻はサービス終了目前の2021年1月2日にギリギリでダウンロードしたものです。

内容は全6巻にわたる旅行記で、インドのカルカッタからポルトガルのロカ岬まで、ユーラシア大陸を単独バイクで横断する壮大な旅が描かれています。旅の期間は1999年から2000年にかけてで、現在とは各国の情勢や街並みも大きく異なっていることでしょう。それでも、当時の空気感やエピソードが生き生きと綴られており、読み物として非常に面白く感じました。

オートバイでの旅でありながら、バイク自体の詳細な解説や整備の話などはほとんどありません。そのため、純粋にオートバイツーリングに関する情報を期待している方にとっては、少し物足りなく感じるかもしれませんが、旅行記としては十分に楽しめる内容です。

★★★★★

『珍夜特急』とは

内容説明
インドのカルカッタからポルトガルのロカ岬まで、ユーラシア大陸を単独バイクで横断する――。19歳の”私”は、大学の学費を費やして行ったタイ旅行でどこからともなくそんな啓示を受ける。

1巻 インド・パキスタン
すぐに卒業を諦め、3年間に及ぶ準備期間を経ていよいよインドに入国した”私”は、いきなり送ったバイクを受け取れないというハプニングに見舞われる。
こんな調子で、それまで日本ですらまともなツーリングもしたことのなかった”私”が、ポルトガルまで無事に走り続けることができるのだろうか――。期間約1年、5万キロにわたるトラブルまみれの旅が、いま始まる!
2巻 パキスタン・イラン・トルコ
パキスタン入国後、トライバルエリアにびびった”私”は、急ぐあまりにトラックに引っ掛けられるという事故に見舞われながらも、何とかクエッタにたどり着く。
そこでデリーで出会ったドイツ人カップルのライダーと再会し、一時共に旅をすることになるのだが――。
3巻 トルコ・バルカン半島
再び独りになった”私”は、広大なトルコを走り続け遂にヨーロッパへの架け橋となる街、イスタンブールに到達する。
そこで出会ったインド以来の日本人旅行者たちと久しぶりの日本語を堪能する中、”私”はひとりの女性に心惹かれるようになっていく――。
4巻 東欧・バルト3国・北欧
ドイツ入国後、アジアを共に旅した相棒アントノッチの暮らす「バス」に転がり込んだ”私”は、そこで愛車の整備、再装備を施した後、もともとの予定にはなかった東欧、そしてバルト3国へと向かうことを決断する。そしてそれはヨーロッパ大陸の最北端であるノール・カップまでの旅へと続くことになるのだった――。
5巻 西欧・モロッコ
享楽の都アムステルダムを出た”私”は、目前に迫った旅の終着点ポルトガルのリスボンに向けて、愛車XL250Rパリダカのアクセルを絞る。しかしその胸中にはこのまま旅を終わらせてしまうにあたっての奇妙な不完全燃焼を抱えていた。
――果たしてこのままリスボンをゴールにしてしまってよいものなのだろうか――。その問いに答えを見出せないままたどり着いた約束の地で、”私”はその後の旅を大きく変える出会いを果たすことになる――。
6巻 南欧・西欧
アフリカ大陸から再びヨーロッパに戻った”私”は、とにかく愛車を日本に発送できる港を探して南ヨーロッパをひた走る。
様々な思いと打算、そして下心を総合した結果、”私”の決断したルートは、冬のヨーロッパではもっとも厳しいイバラの道だった――。期間およそ1年、5万キロ以上に渡って走り続けた結果”私”が見たものとは――。奇しくも道中出会った様々な濃いキャラクターたちが再登場するユーラシア編の最終巻。

著者等紹介
クロサワ コウタロウ
東京都昭島市出身。1976年生まれ。公立大学在学中にオートバイで単独ユーラシア大陸横断を思いたち、1999年に愛車XL250Rパリダカと共にインドのカルカッタに渡る。
翌年に無事帰国した後、今度はオートバイによる南北アメリカ大陸縦断を果たすべく、再び愛機に乗って甲信越地方を中心に2年間の出稼ぎの旅に出る。
2002年、カナダのバンクーバーより新機XL600Rファラオでの南北アメリカ大陸縦断を開始。翌2003年の3月に無事帰国を果たす。
その後ホテル勤務、訪問販売員、出版社勤務などを経て現在に至る。

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感想・その他

これまで、自転車やオートバイで日本一周や世界一周をした人の紀行本は、数え切れないほど読んできました。旅人たちの息づかいや道中の出来事が詰まった本はどれも魅力的ですが、その中でもひときわ印象に残ったのが、この『珍夜特急』です。特筆すべきは、単なる旅の記録以上の面白さが詰まっている点です。

この本の魅力は、旅そのものの内容やルートの珍しさにあるというよりも、著者の「書く力」にあると感じます。文章は簡潔でありながら非常に読みやすく、ユーモアとウィットに富んでいます。少し皮肉を効かせた表現や、旅の途中で起きるちょっとした出来事を面白く切り取る筆致には、ページをめくる手が止まらなくなるほどの吸引力があります。正直なところ、この著者であれば、テーマがオートバイでのユーラシア大陸横断でなくても、たとえば日常の一コマを綴ったエッセイであっても十分面白いのではないかと思わせるほどです。

著者は紀行文だけでなく、小説も執筆しているようです。そうなるとますます興味が湧いてきます。まずは続編である『珍夜特急 セカンドシーズン』に手を伸ばそうと思います。著者自身も「ファーストシーズンよりさらに面白く仕上がっている」と語っているとのことで、期待が高まります。

ちなみに、この著者の本はすべてKindleダイレクト・パブリッシング(KDP)という仕組みで出版されています。KDPとは、誰でも無料で電子書籍をセルフ出版し、Amazonのサイトを通じて販売できるサービスです。出版社を介さずに、自分の作品を直接読者へ届けられる時代になったというのも興味深い点で、著者のフットワークの軽さや自由な表現が、この作品群の魅力のひとつになっているのかもしれません。

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