私的評価
映画『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』を観ました。レンタルDVDでの鑑賞です。
物語は、いきなり観客の度肝を抜くようなシーンから始まります。冒頭に登場するのは女性死体の解体シーン。強烈なインパクトで幕を開け、その後も主人公ホンカの日常が淡々と描かれていきます。彼の生活は、酒場と薄暗い屋根裏部屋を往復するだけの鬱屈したもの。取り立てて劇的な展開があるわけではなく、殺人シーンも淡々と挿入されるだけで、むしろ日常の延長として描かれている点が不気味です。
しかし、物語は最後に唐突な幕切れを迎えます。ホンカはあっけなく捕まり、物語はそこで終わってしまうのです。観客としては、「なぜ彼はこうなったのか?」「彼の歪んだ欲望や衝動の源泉はどこにあったのか?」という問いに一切答えが与えられないまま、映画館を後にすることになります。彼の異様な容姿についても、過去の背景や心の闇についても触れられず、ただ事実としての“殺人鬼の日常”が切り取られるにとどまっています。
この割り切った描き方を「リアル」と受け止めるか、「物足りない」と感じるかで評価が大きく分かれる作品だと思います。私は正直、観終わった直後は「えっ、それで終わり?」という肩透かし感が残りました。ただ同時に、説明を排除したからこそ逆に生々しく、ホンカの存在そのものが不気味に胸の奥に居座り続ける…そんな後味の悪さがこの映画の真骨頂なのかもしれません。
★★★☆☆
作品概要
監督・脚本はファティ・アキン。制作はエドワード・ノートンほか。
原作はハインツ・シュトロンク。
出演はヨナス・ダスラー、マルガレーテ・ティーゼル、ハーク・ボームほか。
2019年制作のドイツ・フランス合作のサスペンスホラー映画です。
作品の紹介・あらすじ
解説
実在した殺人鬼フリッツ・ホンカの凶行を描いた実録サスペンス。女性から相手にされないフリッツが、殺人に手を染めていく。メガホンを取るのは『女は二度決断する』などのファティ・アキン。『僕たちは希望という名の列車に乗った』などのヨナス・ダスラーを筆頭に、『アンデッド/ブラインド 不死身の少女と盲目の少年』などのマルガレーテ・ティーゼル、『女は二度決断する』の共同脚本を担当したハーク・ボームらが出演している。
あらすじ
1970年代のドイツ、ハンブルク。さびしさを紛らわせようとする男女が集うバー「ゴールデン・グローブ」に通って女性に声を掛けるが、ボロボロで曲がった歯に斜視という外見で見向きもされないフリッツ・ホンカ。心を開いてくれた女性が現れても、空回りした言動をとってしまう。やがて暮らしている安アパートの屋根裏部屋に年増の娼婦(しょうふ)を招いては、ある行為をするようになる。
シネマトゥデイ
感想・その他
1970年代のドイツ・ハンブルクに実在したシリアルキラー、フリッツ・ホンカ。事故によって斜視となり、鼻が潰れ、猫背となったその異様な容姿も影響してか、彼は5年間で4人の女性を殺害しました。本作は、そんなホンカの日常を淡々と描いています。小汚れた服装や歪んだ外見、そして切断された死体を隠した屋根裏部屋――映像からは実際に腐臭や不快な臭いが漂ってくるかのようで、観ている側の五感を刺激してきます。やがて偶然のきっかけで犯行が明るみに出て、ホンカは逃走しますが、それまで捕まらなかったこと自体が不思議に思えるほどずさんな犯行ぶり。いつまでも発覚しないと信じ込んでいたことこそ、精神の破綻を物語っているのでしょう。
一方で、彼の人生には一瞬の「更生の兆し」も描かれます。アルコールを断ち、職に就き、まともな暮らしを取り戻そうとするのです。しかし結局は再び酒に溺れ、職を失い、元の生活へと逆戻り。そんな姿には、人間らしい弱さや哀しみも垣間見えました。
調べてみると、ホンカはこの容姿になってからも二度の結婚を経験しており、しかし女癖の悪さと暴力、そしてアルコール依存によっていずれも離婚。その後ますます酒量が増え、人生は崩壊していきます。救いようのない存在である一方、裁判では知的障害と精神疾患が認定され、懲役15年の判決を受けました。1993年に保釈された後は名前を変え、老人ホームでひっそりと生涯を終えたといいます。
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