私的評価
映画『家族を想うとき』を観ました。レンタルDVDでの鑑賞です。
この映画を知ったきっかけは、別のDVDで観た予告編でした。映像やテーマから「とても良さそうだ」と感じ、すぐに借りて観ることにしました。
物語は、主人公の家族に次々と降りかかる不幸や試練を描きます。事故、病気、裏切り…と、まさに「これでもか、これでもか」と不運が重なり、観ているこちらも思わず胸が締め付けられるほどです。自然と感情移入してしまい、登場人物たちの苦しみに自分の感情まで巻き込まれていきます。
視聴中、「この積もりに積もったうっ憤を、どこかで晴らしてくれるだろう」「最後には一発逆転のスカッとした結末が待っているはずだ」と期待しました。しかし、映画は私たちの期待とは裏腹に、都合の良いハッピーエンドを描くことはありません。結末に向かうほど、どんよりとした重苦しい空気が漂い、観終わった後には暗くて辛い気持ちが残ります。
こうした展開は決して心地よいものではありませんが、現実の人生の理不尽さや、家族というものの複雑さを描き出す手法としては、確かに強い印象を与える作品だと思います。観る者に「安易な救済はない」というメッセージを突きつける映画でした。
★★★★☆
作品概要
監督はケン・ローチ。脚本はポール・ラヴァーティ。
制作はレベッカ・オブライエン。
出演はクリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッドほか。
2019年のイギリス・フランス・ベルギーのドラマ映画です。ワールド・プレミアは2019年5月16日に第72回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で行われ、パルム・ドールを争いました。
作品の紹介・あらすじ
解説
『麦の穂をゆらす風』『わたしは、ダニエル・ブレイク』などのケン・ローチ監督が、働き方の変化と時代に振り回される家族の姿を描いたヒューマンドラマ。イギリスのニューカッスルを舞台に、懸命に生きる家族の絆を映し出す。クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーンらが出演する。脚本は『天使の分け前』『エリックを探して』などローチ監督作を担当してきたポール・ラヴァティ。
あらすじ
マイホームを持ちたいと考えている父のリッキーは、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立する。母のアビーは、介護士として働いていた。夫婦は家族の幸せのために働く一方で子供たちと一緒に居る時間は少なくなり、高校生のセブと小学生のライザ・ジェーンはさみしさを募らせていた。ある日、リッキーが事件に巻き込まれる。
シネマトゥデイ
感想・その他
「家族を想うとき」という題名が示す通り、映画のクライマックスでは、家族への思いが行動に直結します。父親は家族を守ろうとするあまり、やや暴走気味な行動に出ます。それまで反抗的な態度をとっていた長男も、父親の行動の裏にある「家族を想う気持ち」を理解し、その行為を止めようとします。一見すれば心温まる「家族愛」の場面であるはずですが、この映画ではその思いが家族間でうまく噛み合わず、空回りしてしまうのです。この描写から感じられるのは、どんなに真面目に頑張っても、一つの歯車が狂うと、あっという間に平穏な生活が崩れ去ってしまう脆さです。映画の家族の姿は、現代の我々にも通じる不安感を象徴しているように思えます。今の世の中でいえば、コロナ禍による生活の不安定さや、失業・収入減といった経済的な不安が、いつ自分の身に降りかかるか分からない状況です。
また、貧困や格差社会は、すでに日本でも現実として始まっています。かつて昭和末期には「国民皆中流階級」と言われた時代もありましたが、それはもはや遠い過去の話です。映画の中の家族の崩れや葛藤は、現代社会の不安定さや、人間関係の複雑さを反映しており、単なる家庭ドラマを超えた普遍的なテーマを感じさせます。
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