片岡義男著『珈琲が呼ぶ』を読んだ感想


私的評価

片岡義男著『珈琲が呼ぶ』を新聞の広告で知り、すぐに図書館で予約して読みました。

久しぶりに触れる片岡ワールドは、独特の言い回しとリズム感で、まさに片岡義男らしい文体が健在でした。文章を読み進めるうちに、少し格好つけすぎではないかと感じる箇所もありましたが、それも含めて彼らしい魅力だと思えます。

本書には、珈琲にまつわるさまざまなエピソードが綴られています。喫茶店での何気ない会話や、珈琲を通して出会う人々とのやり取り、あるいは一杯の珈琲が呼び起こす思い出や感情の描写など、多彩なエピソードが並びます。読みながら、「なるほど、珈琲一杯にもこんな世界が広がるのか」と、思わず頷いてしまう場面も少なくありません。もちろん、個人的にそれほど面白く感じなかった話もありましたが、それも含めて一冊の味わいとして楽しめました。

珈琲を愛する人、あるいは日常の些細な出来事や人との関わりに目を向けることの面白さを感じたい人には、特におすすめの一冊です。片岡義男の世界観に浸りながら、ゆったりと珈琲を味わうような読書体験ができました。

★★★☆☆

『珈琲が呼ぶ』とは

驚くべきことに79歳にして出版された、珈琲にまつわるエッセイ本です。高校生の時は、狂ったように片っ端から片岡ワールドの小説を読み漁り、大の片岡ファンでした。

内容紹介
なぜ今まで片岡義男の書き下ろし珈琲エッセイ本がなかったのか?
ザ・ビートルズ四人のサイン。珈琲が呼ぶボブ・ディラン。
三軒茶屋。珈琲が呼ぶクェンティン・タランティーノ。珈琲が呼ぶ美空ひばり。
ジム・ジャーミッシュ。珈琲が呼ぶ黒澤明。珈琲が呼ぶ玉子サンド。
神保町の路地裏。珈琲が呼ぶオーティス・レディング。珈琲が呼ぶつげ義春。
トム・ウェイツ。珈琲が呼ぶ京都・姉小路通。
フィリップ・マーロウ。珈琲が呼ぶタヒチ。珈琲が呼ぶ高田渡。
ホットケーキ。珈琲が呼ぶ下北沢。珈琲が呼ぶクリント・イーストウッド。
有楽町・スバル街……

一杯のコーヒーが呼ぶ意外な人物、映画、音楽、コミックス、場所が織りなす物語の数々。
他にも「一杯のコーヒーが百円になるまで」「インスタントコーヒーという存在」「僕がアイスコーヒーを飲まない理由」「高級ホテルのコーヒー代とは入場料」「理想のマグのかたち」「五時間で四十杯のコーヒーを飲んだ私」「喫茶店のコーヒーについて語るとき、大事なのは椅子だ」「ブラック・コーヒー三杯で彼女は立ち直れたのか」などを主題に、乾いた筆致でコーヒーが主役の書き下ろしエッセイを44篇収録。本文と密接に絡み合う、豊富なカラー写真やコミックスのひとコマなどが、ふんだんに添えられています。
「サード・ウェーヴ」以来、大ブームになっている「コーヒー本」「喫茶店ムック」「カフェGUIDE」とは全く違う角度からコーヒーを捉えた、作者の異色作です。コーヒー好きはもちろん、映画・音楽・サブカル愛好者にはたまらない、全45篇の書き下ろしエッセイ集。

著者プロフィール
片岡義男(かたおか・よしお) 1939年東京都生まれ。作家、写真家、翻訳家。1974年に『白い波の荒野へ』で作家としてデビュー。著書に『スローなブギにしてくれ』『ロンサム・カウボーイ』『日本語の外へ』など多数。近著に『コーヒーとドーナツ盤、黒いニットのタイ。』など。
Amazon

感想・その他

片岡義男と言えば、私にとってはKawasaki W1というオートバイ、そして夏の海や彼女のイメージが真っ先に思い浮かびます。その印象は強く、赤い背表紙の角川文庫版の本は、今でも私の本棚の一角を占めています。

それまでは、文学本を読まなければならないという強迫観念のようなものに縛られ、川端康成や夏目漱石といった名作を、面白いと思えないまま無理やり読んでいた時期がありました。しかし、高校生になり、オートバイに興味を持ち始めた頃、ふと目にしたのが片岡義男の『彼のオートバイ、彼女の島』でした。それが、私と片岡ワールドとの出会いの始まりです。

あれから四十数年が経ちましたが、片岡義男の洒落た言葉回しや、軽やかでリズミカルな文章表現は健在です。彼の文章を読むと、自然と珈琲を飲みたくなり、珈琲を片手にじっくりと読み進めたくなる――そんな不思議な魅力があります。オートバイや夏、恋愛の香りが漂う片岡ワールドは、今も昔も変わらず、私にとって特別な読書体験を提供してくれるのです。

コメント