私的評価
磯田道史著『無私の日本人』を図書館で借りて読みました。当時の時代背景(江戸中期から後期)について詳しく描かれており、その点も非常に興味深く読むことができました。江戸時代には「無私」という哲学が広く息づいていたと、作者は述べています。
「江戸期の庶民は、親切、やさしさという、この地球上のあらゆる文明が経験したことがないほどの美しさをもっていた」
このような話こそ、小学校の道徳の時間でぜひ学んでほしいと感じました。これからの日本は、もしかすると経済大国ではなくなるかもしれません。しかし、こうした「無私」の心を持った類いまれな人々が住む国として、全世界から愛される存在になっても良いのではないでしょうか。
★★★★☆
『無私の日本人』とは
磯田道史著、2012年に文藝春秋より刊行(文庫本は単行本は2012年)。内容説明
貧しい宿場町の行く末を心底から憂う商人・穀田屋十三郎が同志と出会い、心願成就のためには自らの破産も一家離散も辞さない決意を固めた時、奇跡への道は開かれた―無名の、ふつうの江戸人に宿っていた深い哲学と、中根東里、大田垣蓮月ら三人の生きざまを通して「日本人の幸福」を発見した感動の傑作評伝。
第1章 穀田屋十三郎
第2章 中根東里
第3章 大田垣蓮月
著者紹介
磯田道史[イソダミチフミ]
1970(昭和45)年岡山市生まれ。歴史家。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。2018年3月現在、国際日本文化研究センター准教授。『武士の家計簿』(新潮ドキュメント賞受賞)、『天災から日本史を読みなおす』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『日本史の内幕』など著書多数。
紀伊國屋書店
感想
映画『殿、利息でござる!』を観て、そのユーモラスさと人情味あふれる物語にすっかり引き込まれたので、原作も手に取ってみることにしました。映画は原作の骨組みに、面白おかしい味付けやエンタメ性を加えた作品という印象でしたが、決して軽薄なおふざけ映画ではありません。主演の阿部サダヲさんが持ち前のコミカルさを活かしつつも、登場人物の苦悩や覚悟、そして人としての優しさを丁寧に描き出しており、観終わった後に心に温かく響くものがありました。物語の基になっているのは、仙台藩吉岡宿に残された古文書『国恩記』に記された実話です。当時の吉岡宿では、年貢だけでなく「伝馬役」という重い負担が人々を苦しめていました。宿場町として人馬を提供する義務は大きく、生活に追われる庶民にとっては大きな痛手だったのです。そのため、生活に行き詰まり、やむなく町を去る住人も後を絶たなかったといいます。そんな中、穀田屋十三郎をはじめとする町の有志たちは、この負担を軽減し、吉岡宿の未来を守るためにある大胆な計画を立て、実行に移していきます……。その行動力と覚悟に、現代を生きる私たちも学ぶべきものがあると感じました。
また、本書では映画でメインとして描かれた穀田屋十三郎だけでなく、江戸時代中期の儒学者・中根東里や、江戸時代後期の尼僧であり歌人・陶芸家でもあった大田垣蓮月といった人物についても詳しく触れられています。これらの人物は学校の教科書に載るような有名人ではありませんが、それぞれが時代や立場を超えて、自らの信念や善意を貫いた生き方をしており、その無私の精神には強く心を打たれました。こうした存在を知ることができたのは、この本を読んだからこそであり、歴史の表舞台に現れない名もなき人々の生き方を垣間見たような感動を覚えました。
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