山田洋次著『悪童 小説 寅次郎の告白』を読んだ感想

私的評価

山田洋次著『悪童 小説 寅次郎の告白』を読みました。

子供の頃から、寅さん映画は何度観ても飽きることがなく、何度でも見返してしまう魅力があります。それだけ、寅さんのキャラクターや物語には普遍的な面白さと温かさがあるのでしょう。ちなみに、私の一番好きな寅さん映画は『男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋』です。

映画の舞台となった伊根の町を実際に巡ったこともあり、スクリーンで見た景色を思い出しながら、現地の空気や海の香りを感じることができました。そして何より印象的なのは、あの鎌倉デートのシーンです。短い時間の中で織りなされる切なくも美しい二人のやり取りは、いつまでも心に残ります。寅さんの自由奔放さと、その中に垣間見える優しさが、切なさと共に胸に迫る名場面でした。

寅さんの世界は、文字や映画を通じて何度も楽しむことができ、そのたびに新しい発見や感動があります。この小説もまた、そんな寅さんの魅力を改めて感じさせてくれる一冊でした。

★★★★★

『悪童 小説 寅次郎の告白』とは

NHKで放送された『少年寅次郎』があまりにも良かったので、原作の方も読みたくなりました。

出版社内容情報
日本映画史上、最大のヒーロー「寅さん」。1969年の第1作以来、特別編を含む全49作が公開された映画『男はつらいよ』シリーズは、いまなおひんぱんにテレビ放送されるなど、その人気はまさに“永遠不滅”級!
本作は、2011年1月より2年間にわたり全50巻が刊行された『寅さんDVDマガジン』に連載された、山田洋次初の小説「けっこう毛だらけ 小説・寅さんの少年時代」を改題、改稿の上、大幅加筆した単行本作品。
「2・26事件」の朝に帝釈天に捨てられたという衝撃の誕生秘話から柴又を飛び出すまでの十数年を、隠居中?それとも旅先? とにかく元気な寅さんがほろ酔い気分で語ります。
育ての母親に実の父。早逝する兄や出征する恩師たち、そして青ばなをたらした友人たち……。映画シリーズには登場することのないキャラクターたちが、笑いと涙の物語を奏でます。
え!寅さんの名付け親はあの人だったの!!!
御前様が禁断の恋を?
タコ社長のために寅さんが敵討ち?
東京大空襲でおいちゃんとおばちゃんは……。
さくらは昔から寅さんより賢かった!!(笑)
映画でおなじみの柴又の面々の衝撃エピソードが
次々明かされていきます。
瞼の母のお菊、あの散歩先生も登場。映画の中の出来事とクロスオーバーしていく新たな真実……。
さらにさらに、つい最近、生まれて初めて健康診断に行ったという寅さんは……。

最後の映画『寅次郎 紅の花』から23年。寅さんが活字になって帰ってきた!
ファン待望にして騒然の一冊!

著者等紹介
山田洋次[ヤマダヨウジ]
映画監督、脚本家。1931年大阪府生まれ。54年、東京大学法学部卒。同年、助監督として松竹入社。61年『二階の他人』で監督デビュー。69年「男はつらいよ」シリーズ開始。他に代表作として、第一回日本アカデミー賞最優秀監督賞を含む8部門受賞の『幸福の黄色いハンカチ』(77)、第26回日本アカデミー賞14部門受賞『たそがれ清兵衛』(2002)などがある。また07年以後は、歌舞伎や演劇作品の脚本・演出なども手がける。12年には文化勲章受章。『悪童(ワルガキ)―小説 寅次郎の告白』が初小説となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) ※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

紀伊國屋書店

感想

物語は、どこか駅前の飲み屋で少し酔った寅さんが、偶然居合わせたサラリーマンに、あの独特の調子で自分の生い立ちや家出までの話を語るところから始まります。その軽妙な語り口や、箸を片手におもしろ可笑しく話す寅さんの姿が、ありありと脳裏に浮かび、まるで目の前に寅さんがいるかのように感じられます。

文章は軽やかで読みやすく、笑いあり涙ありの展開に引き込まれ、一気に読み進めてしまいます。物語では、寅さんの出生の秘密や幼少期の生い立ち、御前様や恩師との触れ合い、幼い頃の淡い恋心、そして最愛の育ての母や妹さくらとの絆など、心に残るエピソードが次々と描かれています。読みながら、ページをめくる手を止めたくなくなる、そんな本でした。

NHKドラマ版もほぼ原作通りに制作されていました。細かい違いとしては、兄の昭一郎や祖父はドラマの方がやや優しい人物として描かれており、父親・平蔵にはドラマで見られるちょっとした優しさは原作にはありません。また、原作には祖母もチラッと登場します。おいちゃんの竜造は、三代目下條正巳さんのイメージそのままで、ドラマを先に観ていた私は、どうしても役者さんの姿が頭に浮かびながら読んでしまいました。

寅さんの世界を文字で味わいながら、思わず笑い、時には胸を打たれる、そんな一冊です。

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