丹波哲郎主演、映画『砂の器』のあらすじ・感想など

私的評価

映画『砂の器』を観ました。
Amazonプライムビデオでの鑑賞です。

名作と名高いこの作品、以前に中井正広さんが出演したドラマ版は観たことがありますが、映画版は今回が初めてです。原作の小説は未読ですが、文庫本でおそらく1000ページ近くになるボリュームだと聞いています。それをたった143分という映画の尺に収め、見応えのあるストーリーとして表現した脚本陣には本当に感心しました。短い時間の中で、登場人物の背景や心理、事件の謎を丁寧に描きながらも、テンポを損なわない構成は見事です。

映像や音楽も印象的で、特にクラシック音楽の使い方が物語の切なさや緊張感を一層引き立てていました。キャスト陣の演技も安定していて、登場人物ひとりひとりの感情が伝わってきます。原作の重厚さを損なわずに、映画としての完成度を高めた、さすが名作と言える作品でした。観終わった後も、余韻がしばらく残り、じっくり考えさせられる映画です。

★★★★★

作品概要

監督は野村芳太郎。
脚本は橋本忍、山田洋次。
製作は橋本忍、佐藤正之です。
原作は松本清張の「砂の器」。
出演は丹波哲郎、加藤剛、森田健作ほか。

1974年制作の日本映画です。松本清張の同名原作を橋本忍と山田洋次脚本し、野村芳太郎監督が映画化した社会派サスペンスドラマです。東京・蒲田にある国鉄の操車場で殺人事件が発生するが、被害者の身元がわからず捜査は難航する。しかし、被害者が殺害される直前にある男と会っていたことがわかり、2人の会話から「カメダ」という謎の単語が浮かび上がる…。

作品の紹介・あらすじ

5月12日の早朝、国電蒲田操車場内で、男の殺害死体が発見された。前日の深夜、蒲田駅近くのトリスバーで、被害者と連れの客が話しこんでいたことが判明するが、被害者のほうは東北訛りのズーズー弁で話し、また二人はしきりと「カメダ」の名前を話題にしていたという。当初「カメダ」の手がかりは掴めなかったが、ベテラン刑事の今西栄太郎は、秋田県に「羽後亀田」の駅名があることに気づく。付近に不審な男がうろついていたとの情報も得て、今西は若手刑事の吉村と共に周辺の調査に赴く。調査の結果は芳しいものではなかったが、帰途につこうとする二人は、近年話題の若手文化人集団「ヌーボー・グループ」のメンバーが、駅で人々に囲まれているのを目にする。「ヌーボー・グループ」はあらゆる既成の権威を否定し、マスコミの寵児となっていたが、メンバーの中心的存在の評論家・関川重雄の私生活には暗い影が射していた。他方、ミュジーク・コンクレート等の前衛音楽を手がける音楽家・和賀英良は、アメリカでその才能を認められ名声を高めることを構想していた。
殺人事件の捜査は行き詰まっていたが、養子の申し出から、被害者の氏名が「三木謙一」であることが判明する。養子の三木彰吉は岡山県在住であり、三木謙一が東北弁を使うはずがないと述べたため、今西は困惑するが、専門家の示唆を受け、実は島根県出雲地方は東北地方と似た方言を使用する地域であること(雲伯方言、出雲方言)を知り、島根県の地図から「亀嵩」の駅名を発見する。今西は亀嵩近辺に足を運び、被害者の過去から犯人像を掴もうとするが、被害者が好人物であったことを知るばかりで、有力な手がかりは得られないように思われた。
続いて第二・第三の殺人が発生し、事件の謎は深まっていくが、今西は吉村の協力を得つつ苦心の捜査を続ける。他方「ヌーボー・グループ」の人間関係にも微妙な変化が進んでいた。長い探索の末に、今西は犯人の過去を知る。
捜査はやがて、本浦秀夫という一人の男にたどり着く。秀夫は、石川県の寒村に生まれた。父・千代吉がハンセン病にかかったため母が去り、やがて村を追われ、やむなく父と巡礼(お遍路)姿で放浪の旅を続けていた。秀夫が7歳のときに父子は、島根県の亀嵩に到達し、当地駐在の善良な巡査・三木謙一に保護された。三木は千代吉を療養所に入れ、秀夫はとりあえず手元に置き、のちに篤志家の元へ養子縁組させる心づもりであった。しかし、秀夫はすぐに三木の元を逃げ出し姿を消した。
大阪まで逃れた秀夫は、おそらく誰かのもとで育てられた、あるいは奉公していたものと思われる。その後、大阪市浪速区付近が空襲に遭い、住民の戸籍が原本・副本ともに焼失した。当時18歳の秀夫は戸籍の焼失に乗じて、和賀英蔵・キミ子夫妻の長男・和賀英良として年齢も詐称し、新たな戸籍を作成していた。一連の殺人は和賀英良こと本浦秀夫が自身の過去を知る人間を消すためのものだったのである。

Wikipedia(砂の器)

感想・その他

この映画のクライマックスは、やはり最後のシーンに尽きます。今西刑事が逮捕状を請求する捜査会議の場面。ここでの緊張感は圧倒的で、手に汗握る瞬間です。このシーンは、和賀が作曲して指揮をするコンサートの場面と巧みにクロスし、同時に和賀がハンセン氏病の父親と過酷な長旅をした記憶がフラッシュバックのように映し出されます。そして、ついに明かされる殺害の動機——どうして和賀は、以前お世話になった三木元巡査を殺害したのか。その答えが音楽「宿命」とともに映像に重なることで、観る者の胸に深く響き、思わず息を呑む感動的なシーンとなっています。

また、個人的に好きな場面は、渥美清が登場する伊勢の映画館のシーンです。お伊勢参りに出かけるはずだった三木元巡査が、なぜか予定を変更して東京へ向かった謎。この不可解な行動の理由が、後に捜査によって明らかになる仕組みが巧妙で、物語に深みを与えています。三木元巡査が二度も映画館に足を運んだ理由も、普通なら単純に映画が面白くてもう一度観たかったのだろうと推測できますが、実際は曜日ごとに異なる映画が上映されていたことが捜査で分かるのです。この緻密な推理展開が非常に見応えがあり、観ていてワクワクしました。

さらに、当時52歳だった丹波哲郎さんの存在感には圧倒されます。今の私よりも若いのに、この貫禄と風格、そして格好良さはまさに圧巻です。加藤剛さんのハンサムっぷりも半端なく、画面に登場するだけで映画の世界観が引き締まります。こうした役者たちの魅力が、映画全体をさらに引き立てていました。

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