私的評価
映画『15時17分、パリ行き』を観ました。レンタルビデオでの鑑賞です。
『許されざる者』、『グラン・トリノ』、クリント・イーストウッド監督作品ではなんと言ってもこの2作品が好きです。
さて、今回観たのは実際に起こった事件を映画化したもの。どんなことが列車内で起こったのか、ドキドキしながら観始めました。しかし、これがなかなか始まらない。主人公たちの幼少期のエピソードなんかから始まるんです。そして事件前の旅行の詳細なんかも…。やっと始まった列車内の映像は、多分10分くらいでしょうか。デフォルメしてアクション性を高めるとかの演出はなく、まるでドキュメンタリー映画のようでした。
★★★★☆
作品概要
監督はクリント・イーストウッド。脚本はロシー・ブライスカル。
製作総指揮はブルース・バーマンです。
出演はスペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトスほか。
2018年制作のアメリカ映画です。2015年にヨーロッパで起こった無差別テロ「タリス銃乱射事件」を題材に、その現場に居合わせ犯人を取り押さえた3人の若者を主人公にした映画です。
作品の紹介・あらすじ
解説
クリント・イーストウッド監督が、2015年8月に高速鉄道で起きた無差別テロ事件を映画化。列車に乗り合わせていた3人のアメリカ人青年がテロリストに立ち向かう姿を描く。事件の当事者であるアンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンを主演俳優に起用し、当時列車に居合わせた乗客も出演。撮影も実際に事件が起きた場所で行われた。
あらすじ
2015年8月21日、554人の客が乗るアムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリスに、武装したイスラム過激派の男が乗り込み無差別テロを企てる。乗客たちが恐怖に凍り付く中、旅行中で偶然乗り合わせていたアメリカ空軍兵スペンサー・ストーンとオレゴン州兵アレク・スカラトス、二人の友人の大学生アンソニー・サドラーが犯人に立ち向かう。
シネマトゥデイ
2015年8月21日、乗客554名を乗せたアムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリス車内でトイレに入ろうとしたフランス人の乗客がトイレ内で自動小銃AK-47の装填音に気づき、出てきたところを取り押さえようとしたところ、男が自動小銃を発砲した。このときフランス系アメリカ人の乗客が被弾し重傷を負った。発砲が起きると乗務員は客室の通路を走って乗務員室に逃げ込み鍵をかけた。乗客達が乗務員室の扉をたたき開けるよう求めても乗務員は扉を開かなかった。
しかし、乗客のアメリカ軍人2名(アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン)、アメリカ人大学生(アンソニー・サドラー)、フランス在住イギリス人ビジネスマン(クリス・ノーマン)が男を取り押さえ、制圧に成功した。アメリカ空軍兵士であるスペンサー・ストーンは犯人にカッターナイフで切り付けられ、首と手を負傷した。犯人を取り押さえたアメリカ人3名は友人であり、幼馴染でもあった。オレゴン州兵であるアレク・スカラトスが、アフガニスタン駐留から帰国したのを祝っての旅行のため3名はタリスに乗車していた。犯人はシリアへの渡航歴もあるイスラーム過激派の26歳のモロッコ国籍の男で事件前から情報機関にマークされており、事件当時はAK-47のほかにも複数のナイフや拳銃を所持していた。
また、搭乗していたフランス人俳優のジャン=ユーグ・アングラードは警報器を鳴らそうとしてガラスをたたき割り軽傷を負った。また、乗務員が乗務員室に逃げ込み、扉を施錠して閉じ籠ったこともあり乗客全員が殺害されることを覚悟したと述べている。
スペイン政府のテロ対策機関は、犯人が2014年まで7年間、スペインに居住しており、ベルギーには短期間居住し、フランスを経てシリアへの渡航歴があったことを公表している。
Wikipedia(タリス銃乱射事件)
感想・その他
映画のラストシーンでは、フランス政府から勲章を授与される場面が映し出されました。スクリーンには当時のフランス大統領フランソワ・オランドの姿が映り込み、実際の映像が使用されていることがすぐに分かります。しかし、その場で表彰を受けている人物をよく見ると――映画に登場していた俳優ではなく、あれ?と思わせる光景が広がっていました。実はそこで表彰を受けていたのは俳優ではなく、あの事件の当事者であり、映画の主役を演じたご本人たちだったのです。監督クリント・イーストウッドは、単なる再現ドラマにとどめず、実際に事件を体験した当事者をスクリーンに登場させることで、作品に圧倒的なリアリティを与えていました。しかも主役の3人だけでなく、列車に乗り合わせていた一般の乗客までもが多数出演しており、フィクションとドキュメンタリーの境界を曖昧にする試みに挑んでいたのです。『15時17分、パリ行き』は、まさに“真実を映し出す”ことを徹底的に追求した作品だったといえるでしょう。
一方で、作品内では描かれなかった事実もありました。引用部分にもあるように、当時の乗務員たちは乗務員室に逃げ込み、内側から鍵をかけて乗客を締め出してしまったのです。緊急時の判断だったのか、責任放棄だったのか――その後、彼らがどのような処遇を受けたのかは明らかにされていません。しかし映画ではこの出来事が丸ごと省略され、観客は「英雄たちの勇敢な行動」に焦点を絞った物語を目にすることになります。
その取捨選択もまた、映画という表現の特性を示しているように思えました。史実の全てを描くのではなく、伝えたいメッセージを強調するために必要な部分を残し、不要と判断された部分を削る――その演出の妙が、『15時17分、パリ行き』を単なる事件の再現ではなく、一つの映画作品へと昇華させていたのだと感じました。
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