門井慶喜著『家康、江戸を建てる』を読んだ感想

私的評価

門井慶喜著『家康、江戸を建てる』を図書館で借りて読みました。

タイトルを目にした瞬間から、歴史好きの心をくすぐるワクワク感があり、「これは絶対に面白いに違いない」と期待して手に取りました。実際に読み進めると、その期待を裏切らない内容で、読み終えた後も「なるほど、こうして江戸という都市は作られたのか」と深く感心しました。

これまでの歴史小説は戦や策略に焦点を当てる作品が多い中、本書は“築城”“水運”“経済”など都市建設の裏側に光を当てた点がとても新鮮で、登場人物たちの生き生きとした描写にも引き込まれました。特に、家康という人物像を「武の将軍」ではなく「技を集めた都市開発者」として描いているところが印象的で、読みながら江戸の街並みが目に浮かぶようでした。

著者の門井慶喜さんの作品は今回が初めてでしたが、筆致の確かさとリズムの良さに惹かれました。調べてみると、この方は第158回(2018年度)の直木賞を『銀河鉄道の父』で受賞しており、そちらも非常に高く評価されているとのこと。今回の読書体験で、その作品もぜひ手に取りたいという気持ちが強くなりました。

★★★★☆

『家康、江戸を建てる』とは

出版社内容情報
第155回 直木賞候補作。本郷和人氏推薦!
テレビドラマ化!
職人の情熱と技術が家康の夢を実現する、壮大な物語。

新しい時代を「建てる」とは、まさにこういうこと
本書は壮大な荒野を開拓し、大都市・江戸を作った家康(いえやす)と、その家臣たちと、地元の職人たちの活動を描いている。利根川(とねがわ)の流れを大きく曲げ、金貨を鋳造(ちゅうぞう)し、飲み水を引き、江戸城の石垣を積み、天守閣を建てる。その一つ一つに男たちは文字通り命を賭(か)ける。
他の人々のも共通することだが、カネではない、名誉でもない。男たちはやりがいを求めて、おのが仕事にプライドをもって「江戸」を、現在の東京を「建てた」のだ(解説より抜粋)。

「北条(ほうじょう)家の関東二百四十万石を差し上げよう」天正(てんしょう)十八年、落ちゆく小田原(おだわら)城を眺(なが)めつつ、関白豊臣秀吉(かんぱくとよとみひでよし)は徳川家康(とくがわいえやす)に囁(ささや)いた。その真意は、湿地ばかりが広がる土地と、豊穣(ほうじょう)な駿河(するが)、遠江(とおとうみ)、三河(みかわ)、甲斐(かい)、信濃(しなの)との交換であった。家臣団が激怒する中、なぜか家康は要求を受け入れる──ピンチをチャンスに変えた究極の天下人の、日本史上最大のプロジェクトが始まった!

内容説明
「北条家の関東二百四十万石を差し上げよう」天正十八年、落ちゆく小田原城を眺めつつ、関白豊臣秀吉は徳川家康に囁いた。その真意は、湿地ばかりが広がる土地と、豊穣な駿河、遠江、三河、甲斐、信濃との交換であった。家臣団が激怒する中、なぜか家康は要求を受け入れる―ピンチをチャンスに変えた究極の天下人の、日本史上最大のプロジェクトが始まった!

著者等紹介
門井慶喜[カドイヨシノブ]
1971年生まれ。同志社大学卒。2003年に「キッドナッパーズ」で第四二回オール讀物推理小説新人賞を受賞。15年『東京帝大叡古教授』が第一五三回、翌一六年『家康、江戸を建てる』が第一五五回直木賞候補に。同年『マジカル・ヒストリー・ツアー』で第六九回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞。18年『銀河鉄道の父』で第一五八回直木賞を受賞する。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

紀伊國屋書店

感想・その他

史実に基づいた小説ではありますが、物語の展開や人物の描写が非常に生き生きとしており、まるで主人公たちがその場で実際に語り合い、悩み、考えていたのではないかと思わせるほどのリアリティがあります。扱われているのは、戦で名を馳せた徳川家康や家臣団の「武」の人々ではなく、地道な技術や知恵で世の中を支えた「技」の人たちの物語です。例えば、治水や貨幣制度といった、一見地味ではありますが社会の根幹を支える分野で大きな功績を残した人物たちが中心に描かれています。秀忠もその中に含まれ、彼らの努力と苦労の積み重ねが、後の江戸の繁栄、ひいては東京という都市の礎になったのだという事実に気づかされます。

特に江戸の地形や町割りを知っている方、東京の歴史に関心がある方にとっては、この小説は非常に面白く読めるはずです。どの堀や川がどのように整備され、どんな意図で街づくりが進められたのか、その背景が物語を通して自然に理解できます。現代の街並みに隠れた歴史的な工夫を想像しながら読むと、より深い感慨を味わえるでしょう。

追記(2021/7/27)
ちなみにこの作品は、2019年にはNHK正月時代劇としてドラマ化もされています。二夜連続の構成で、一夜目は「水を制す」(原作でいう治水のエピソード)、二夜目は「金貨の町」(貨幣制度にまつわる物語)が放送されたそうです。私は残念ながらこの放送を見逃してしまったのですが、書籍で描かれた世界観を映像でどう表現したのか非常に気になるところです。再放送や配信があればぜひ視聴したいと思っています。

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