和田竜著『のぼうの城』を読んだ感想

私的評価

和田竜/著『のぼうの城』を映画は観ていましたが、原作を読んでいなかったの読んでみました。
著者の和田竜のデビュー作です。

和田竜著『のぼうの城』は、以前に映画で観ていたものの、原作を読んだことがなかったので今回手に取りました。映画も非常に面白く、迫力ある戦闘シーンや個性的な登場人物たちに引き込まれましたが、原作はそれ以上に緻密な描写と人物の心理描写が深く、物語の世界により没入することができました。特に、合戦の戦略や城の構造、農民や武士たちの暮らしぶりまで、細かく描かれている点が印象的です。和田竜にとっても、これはデビュー作ということで、その筆力の鋭さには改めて感心しました。

物語の中心人物である成田長親についても興味深いエピソードがあります。成田長親は後に剃髪して自永斎(じえいさい)と号し、長男・長季が仕えていた松平忠吉の領地、尾張国で隠居生活を送ったそうです。戦場での勇猛さとは打って変わり、隠居後は静かに余生を過ごしたことを思うと、彼の人生の幅広さに感慨を覚えます。菩提寺は名古屋の大須にある大光院とのこと。次回大須に足を運ぶ際には、ぜひその歴史を感じながらお参りしてみたいと思います。

映画で描かれた華やかな戦闘シーンだけでなく、原作を通して登場人物たちの背景や人生を知ることで、物語の深みや人間味が一層伝わってきます。「のぼう」と呼ばれる長親の人柄や、彼を取り巻く人々の絆、そして戦乱の中での知恵と勇気──そうした要素を原作でじっくり味わえたことは、映画だけでは得られない貴重な体験でした。

★★★☆☆

『のぼうの城』とは

第29回城戸賞(2003年)を受賞した脚本『忍ぶの城』を、映画作品を前提としたノベライズとして自ら執筆したものである。
2008年には花咲アキラの作画によりコミカライズされた同名作品が、『ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて連載されました。
第139回直木賞(2008年上半期)ノミネート、2009年の第6回本屋大賞第2位。
2010年10月時点で累計発行部数70万部を突破している。

内容説明(上巻)
戦国期、天下統一を目前に控えた豊臣秀吉は関東の雄・北条家に大軍を投じた。そのなかに支城、武州・忍城があった。周囲を湖で取り囲まれた「浮城」の異名を持つ難攻不落の城である。秀吉方約二万の大軍を指揮した石田三成の軍勢に対して、その数、僅か五百。城代・成田長親は、領民たちに木偶の坊から取った「のぼう様」などと呼ばれても泰然としている御仁。武・智・仁で統率する、従来の武将とはおよそ異なるが、なぜか領民の人心を掌握していた。従来の武将とは異なる新しい英傑像を提示した四十万部突破、本屋大賞二位の戦国エンターテインメント小説。

内容説明(下巻)
「戦いまする」三成軍使者・長束正家の度重なる愚弄に対し、予定していた和睦の姿勢を翻した「のぼう様」こと成田長親は、正木丹波、柴崎和泉、酒巻靱負ら癖のある家臣らの強い支持を得て、忍城軍総大将としてついに立ちあがる。「これよ、これ。儂が求めていたものは」一方、秀吉に全権を託された忍城攻城軍総大将・石田三成の表情は明るかった。我が意を得たり、とばかりに忍城各門に向け、数の上で圧倒的に有利な兵を配備した。後に「三成の忍城水攻め」として戦国史に記される壮絶な戦いが、ついに幕を開ける。

著者等紹介
和田竜[ワダリョウ]
1969年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。03年に、脚本「忍ぶの城」で城戸賞を受賞。07年に同作と同内容の小説「のぼうの城」を刊行し、作家デビュー。直木賞候補、本屋大賞第二位となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

紀伊國屋書店

感想・その他

最後まで明確には掴めなかったのが、成田長親の器量でした。本当に彼は「でくのぼう」なのか、それとも将器を備えた人物だったのか……。物語を読み進める中で、その境界線は常に曖昧に描かれ、読者の想像に委ねられています。だからこそ、長親という人物の魅力は一層深まるのですが、同時に混乱も覚えます。

実際のところ、忍城籠城戦の経緯はこの『のぼうの城』とはかなり異なっていたようです。成田長親の人物像についても、物語ではコミカルでどこか憎めない“でくのぼう”的な性格として描かれていますが、史実を見ると、誇り高く、節度と知略を備えた典型的な武将であったことがうかがわれます。戦国時代という過酷な時代を生き抜いた武士としての実像は、決して軽んじられるものではありません。そう考えると、この作品は、史実をベースにしながらも大胆にキャラクターを脚色した、エンターテインメント作品として位置付けられると言えるでしょう。

しかし、エンターテインメントであるがゆえに、どうしても違和感を覚える場面もあります。特に最後の甲斐姫に関するくだりです。物語では、長親は甲斐姫の側室になる設定をあっさりと受け入れます。しかし、戦争か開城かの選択を迫られた際、彼は一見、甲斐姫のために戦争を選ぼうとする描写もありました。その流れからすると、突然の側室承諾は、長親の人物像とやや齟齬を感じさせます。史実通りであっても、読者としては納得のいく“落としどころ”がもう少し欲しかったと感じました。長親の魅力や物語の緊張感を損なわずに、エンターテインメントとしての説得力をどう保つか――そこが作品の難しさであり、面白さでもあるのだと思います。

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