
『ツールへの道』 今中大介 著
今中大介さん著『ツールへの道』を読んでみました。
この本は2000年に出版されたもので、図書館で見つけた一冊だったのですが、驚いたことに、まるで誰の手にも触れられていなかったかのようにきれいな状態。新品同様の一冊が、本棚の隅にひっそりと眠っていました。発行から20年以上経っているにもかかわらず、ページをめくる手に古びた感触はなく、まるでタイムカプセルを開けるような感覚で読み始めました。
著者の今中氏については、テレビや自転車雑誌などで見かけるたびに「自分より若い人なんだろうな」と漠然と思っていたのですが、実際には1963年生まれで、なんと自分より一つ年上だということに、少し驚きました。若々しい印象が強かっただけに、読みながらそのキャリアと背景により興味が湧いてきました。
内容は、今中さんがシマノの社員としての立場から、出向という形でイタリアのプロチーム「チーム・ポルティ」に所属し、ヨーロッパのロードレースに本格参戦していた頃の体験を、日記形式で綴ったものです。最初のうちは、異国の地でプロ選手として生活を始めるまでの戸惑いや環境の違い、チームメイトとの関係性などが描かれており、異文化の中での奮闘ぶりに引き込まれていきます。
ただ、途中にはやや淡々とした記述が続く箇所もあり、率直に言って眠気を誘うような章もありました。日記形式ゆえに、日常の小さな出来事の記録が続く場面では、展開の緩やかさに読み手の集中力が試されるような印象もあります。しかし、終盤――特にジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスといったグランツールの章に入ってくると、空気が一変。レース本番の緊張感、現地の空気感、そして日本人として世界最高峰の舞台に立つことの意義と苦労が、生々しく伝わってきて、一気にページをめくる手が止まらなくなりました。
とはいえ、ひとつ惜しかったのは、本のレイアウト。全351ページにわたり、文字はやや小さめで、日記という形式にもかかわらず、日付ごとの区切りが改行されておらず、ほぼノンストップで文字が並んでいます。このため、内容以前に「読みづらい」と感じてしまう箇所も少なくありません。もう少しレイアウトに工夫があれば、より多くの人に手に取ってもらえるのではないかと思いました。
また、内容の時代背景的にも、登場する選手やチームはすでに“過去の存在”となっており、現在のロードレースファンにはややピンとこない部分もあるかもしれません。自分が知っていた選手も、ランス・アームストロングぐらいでした。けれど、それでもなお、ひとりの日本人が異国のプロロード界に挑戦し、走り、戦い、悩みながら自らの道を切り開いていくその姿には、今読んでも変わらぬ価値と熱量が込められています。
ロードレースという競技の裏側、90年代のヨーロッパのプロチームの空気感、そして日本人選手のリアルな奮闘――そうしたものを知りたい方には、一読の価値ある一冊です。今となっては貴重なドキュメント的記録ともいえるでしょう。
351頁に小さな文字、日付単位に一行改行も無く、本としては読みにくく感じました。
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