恩を仇で返す猫



外から帰ってくると、決まって玄関の前にいるのがリンだ。
どうやら鍵の回る音や足音を聞き分けているらしく、「おかえり」と言わんばかりに待ち構えている。その姿を見ると、こちらも思わず顔がほころぶ。

といっても、ほんの数分の交流にすぎない。たかが数分、されど数分。毎日の楽しみなのだから大切にしなければならない。なるべく彼女の期待に応えようと玄関を開け、腕を伸ばす。

ところが、そこでドラマが起きる。
スッと身体をかわし、あっという間に部屋の奥へ逃げていくのだ。「裏切り」という言葉を辞書で引くなら、きっとこの場面の挿絵がふさわしいだろう。こちらは歓迎されていると思い込んでいるのに、蓋を開けてみれば全力の拒絶。恩を仇で返すとはまさにこのことだ。

しかも捕まえるのが一苦労。呼んでも出てこないし、追えば追うほど「鬼ごっこ上等!」とばかりにテンションが上がってしまう。最後には、こちらの方が汗だくで降参する始末だ。

それでも、玄関で待つあの「ちょっとした時間」が、日々の疲れを吹き飛ばしてくれる。裏切られることが分かっていても、やっぱり心のどこかで期待してしまうのだ。猫という生き物は、人間の理性よりもはるかに強い魔力を持っているらしい。

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