藤野千夜著『じい散歩』を読んだ感想

2024年3月18日月曜日

小説 読書

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私的評価

藤野千夜著『じい散歩』を図書館で借りて読みました。

新聞の広告でこの本のことを知り、すぐに図書館で予約しました。読む前は「実話」だと思っていましたが、借りてきて初めて「小説」だと知りました。90歳手前の親父の目線で書かれている家族の物語で、過去を振り返えつつ、日々の暮らしが描かれています。昭和から令和のその時世の社会的な問題点を織り込みながらも、その描かれ方は「淡々」なんです。それでいて、推理小説を読むが如く早く次が読みたくなる、そんな小説でした。
続編の「妻の反乱」編もあるそうなので、借りて読みたいと思います。

★★★★☆

『じい散歩』とは

藤野千夜著、2020年12月に双葉社より刊行されました。2023年8月に双葉文庫より文庫化されました。『じい散歩』、『じい散歩 妻の反乱』はシリーズ累計20万部を超えるヒット作となっています。

内容説明
出版社内容情報
明石家は夫婦あわせて、もうすぐ180歳。一家の主、新平は散歩が趣味の健啖家。妻はそんな夫の浮気をしつこく疑っている。長男は高校中退後、ずっと引きこもり。次男は自称・長女のしっかり者。末っ子は事業に失敗して借金まみれ。……いろいろあるけど、「家族」である日々は続いてゆく。飄々としたユーモアと温かさがじんわりと胸に響く、現代家族小説の傑作!

内容説明
明石家の主、新平は散歩が趣味の健啖家。妻は、散歩先での夫の浮気をしつこく疑っている。長男は高校中退後、ずっと引きこもり。次男はしっかり者の、自称・長女。末っ子は事業に失敗して借金まみれ。…いろいろあるけど、「家族」である日々は続いてゆく。飄々としたユーモアと温かさがじんわりと胸に沁みる、現代家族小説の白眉。

目次
1 秘密の部屋
2 秘密の女
3 秘密の訪問
4 秘密の調査
5 秘密の話
6 秘密の思い出 1
7 秘密の思い出 2
8 秘密の思い出 3
9 秘密の交際
10 秘密の旅路
11 秘密の通信

著者等紹介
藤野千夜[フジノチヤ]
1962年福岡県生まれ。千葉大学教育学部卒。95年『午後の時間割』で第14回海燕新人文学賞、98年『おしゃべり怪談』で第20回野間文芸新人賞、2000年『夏の約束』で第122回芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

紀伊国屋書店

感想・その他

この物語に登場する家族構成は、ある意味で、現代日本の“家族のかたち”そのものを象徴しているように思えました。構成員は、90歳手前の老夫婦と、そのもとに暮らす未婚の息子3人。長年連れ添った妻は、近ごろ記憶が怪しく、初期の認知症が疑われている。長男は無職で、長らく引きこもりの生活を続けており、社会との接点を失って久しい。二男はトランスジェンダーで、自らを「長女」と名乗り、家族との関係にも独特な距離感を持つ。そして三男は自営業を営んでいるが、経営は赤字続きで、親に多額の借金を抱えているという状況です。

決して“幸せ家族”とは言いがたいこの構図が、どこかリアルで、決して他人事ではないと感じてしまいました。むしろ、こうした形の家族は今の日本ではむしろ増えているのではないでしょうか。高齢化が進み、平均寿命は延び続ける一方で、少子化は深刻さを増し、未婚率や晩婚化はもはや“個人の選択”ではなく“社会の構造的な傾向”と言っていいほどのレベルに達しています。

家族という最小単位の共同体は、かつては「助け合い」「支え合い」の象徴でしたが、今や“老々介護”や“経済的共倒れ”の温床にもなり得る時代です。高齢の親が、高齢に近づく無職の子どもの面倒を見ざるを得ないという状況も珍しくありません。自分の家庭にふと目を向けても、決して遠い話ではないことに気づかされます。

私には息子が二人いますが、彼らが結婚し、家庭を持ち、子どもを育てる未来が来るのかどうか――正直、孫の顔を見られるかどうかは五分五分といったところです。若者の将来不安、雇用の不安定さ、都市部での生活コストの高さ、すべてが“結婚”や“子育て”へのハードルを上げているように感じます。希望よりも不確実性が大きい時代です。

また、自分たち夫婦も高齢になれば、いずれ“介護”が現実味を帯びてきます。配偶者の介護、あるいは子どもに世話をかけるかもしれないという不安。それを考えると、この物語の家族の姿が、決して特別なものではなく、“明日の自分たち”かもしれないという予感すら抱かされます。

「平均寿命までに半分の人は死ぬ」とは、ある人が口にしていた言葉ですが、それを思うと、自分の人生にもすでに“残された時間”の終わりが見えてきているのだと感じざるを得ません。だからこそ、限られた時間の中で、家族を思い、できる限りのことをしながらも、最終的には自分の人生をどう生き切るか――そのことを真剣に考えたいと思いました。



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1964年生まれ。糖尿病を患ってから、自転車と歩くことを趣味にしています。毎日クスリ飲んでます。

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