私的評価
海外連続ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン4を観ました。全8話、Amazonプライムビデオでの視聴です。
今までのシーズンとはちょっと違った今作は、ギャング同士の抗争を描いています。とは言え、今まで通りのとても「濃い」登場人物は健在です。中でも看護師でありながら、担当した患者を殺害し、戦利品としてその患者の遺品を集めるサイコパスを演じたジェシー・バックリー。彼女はぶっ飛んだ役を見事に演技し、それには憎々しささえも感じました。あとはカレン・オルドリッジという女優さんが演じた葬儀屋の娘の伯母さん。その無双ぶりはクールです。
序盤は少し退屈しましたが、中盤から一気に加速するします。やはろファーゴシリーズは面白いです。
★★★★☆
作品概要
原案・脚本はノア・ホーリー。製作総指揮はノア・ホーリー、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエンほか。
主演はクリス・ロック、共演者にはジェシー・バックリー、ジェイソン・シュワルツマン、ベン・ウィショーほか。
1950年を舞台とするこのシーズンは、クリス・ロックを主演とし2020年4月19日放送開始予定でしたが、新型コロナウイルスの流行による製作遅れのため、2020年9月27日から放送されました。日本では、2021年1月29日からスター・チャンネルEXで配信され、同年4月からはスター・チャンネルで放送された。
作品の紹介・あらすじ
あらすじ
1950年のミズーリ州カンザスシティを舞台とし、ギャング間の抗争を描く。
当地のギャング団の間には息子を交換することで抗争を避ける習慣があるが、それにもかかわらずユダヤ系ギャングとアイルランド系ギャングは壊滅している。イタリア系ギャングのファッダ家と黒人ギャング団のキャノン有限会社は息子のゼロとサッチェルを交換する。
連続殺人を趣味とする看護婦のオラエッタ(ジェシー・バックリー)が入院したファッダ家の家長ドナテロを密かに殺し指輪を盗む。オラエッタはジョストと関係を持つ。葬儀屋の聡明な娘エセリルダは向かいに住むオラエッタの連続殺人を知り、勤務先の病院長に密告する。オラエッタは病院長の毒殺を謀るも失敗し、エセリルダが密告したことを知る。オラエッタは逮捕される。
長男のジョスト(ジェイソン・シュワルツマン)がファッダ家を継ぐが、野心的な弟のガエターノ(サルバトーレ・エスポジト)は後継者の座を狙い、キャノン有限会社の家長ロイ(クリス・ロック)の長男レミュエルを襲わせる。エセリルダの伯母ゼルメアは恋人のスワニーとともに脱獄し、キャノン有限会社家の金を強奪する。ロイはすべてがファッダ家の仕業と信じてファッダ家の輸送する武器を奪う。
ジョストは手中にあるオーディス・ウェフ刑事(ジャック・ヒューストン)を使ってキャノン有限会社を捜索させ、ガエターノはキャノン有限会社の顧問を殺す。ゼルメアにもらった現金で、エセリルダの父サーマンはロイへの借金を返すが、気づいたロイが脅迫して葬儀屋を手中に入れる。ロイはオーディスを寝返らせ、ゼルメアとスワニーを雇ってガエターノを捕らえる。
ジョストはサッチェルを殺して、ロイにガエターノを殺させようとする。アイルランド系ギャングからのかつての人質で、サッチェルの面倒を見ていたラバイ・ミリガン(ベン・ウィショー)が妨害し二人で逃げるが、追手とともに竜巻で死に、サッチェルが残される。
ジョストはビジネスの一部を渡してでもロイにガエターノを殺させようとするが、ロイは策略に気づいてガエターノを解放して不和を煽る。だがガエターノは兄に復讐せず和解して忠誠を誓う。策略に失敗したロイはファーゴのマフィアに頼んでファッダ兄弟を襲わせ、兄弟の母親を殺す。ロイの情報で、オーディスが逃亡中のスワニーを殺すもゼルメアは逃げる。サッチェルを殺されたと信じるキャノン有限会社と母を殺されたファッダ家は全面抗争となる。ファッダ兄弟はオーディスを殺すが、銃の事故でガエターノも死ぬ。ジョストは荒れる。
エセリルダはドナテロの指輪をロイに渡し、葬儀屋を取り戻す。ロイは指輪を渡してファッダ家の顧問のヴィオランテと和平協定を結び、ヴィオランテは組織を破滅寸前に導いたとしてジョストとオラエッタを処刑し、組織を引き継ぐ。ロイはサッチェルを取り戻すが、スワニーの死の復讐としてゼルメアに殺される。成長したサッチェルはカンザスシティ・マフィアの一員マイク・ミリガンとなる。
Wikipedia(ファーゴ (テレビドラマ))
感想・その他
主演がクリス・ロックと聞いて、「ああ、あの人か」とピンとくる方も多いのではないでしょうか。そうです。2022年のアカデミー賞授賞式で、俳優ウィル・スミスからまさかの“平手打ち”を食らった張本人、それがまさにクリス・ロックです。壇上でのジョークがウィル・スミスの妻・ジェイダに対する無神経なものと受け取られ、感情を爆発させたスミスが突如ステージに上がってロックにビンタをお見舞いする——まさにアカデミー賞史上最大級の騒動といっても過言ではない事件でした。
騒動後、ウィル・スミスは公に謝罪し、アカデミーからは授賞式への10年間出席禁止という処分を受けました。形式上はこれで“幕引き”となったようにも見えましたが、実はそう簡単に終わってはいなかったようです。というのも、その翌年2023年、クリス・ロックが自身のスタンドアップ・コメディ番組の中で、ウィル・スミスやジェイダに対して痛烈な皮肉を交えた“反撃”ともいえるネタを披露したのです。笑いに包んでいるとはいえ、その言葉の端々には怒りと失望、そして赦しきれない感情が滲んでいて、観る側にも彼の複雑な思いがじんわりと伝わってきました。どうやら彼の中では、あのビンタの記憶は今も鮮明に、しかも消化しきれていないようです。
Wikipediaで改めて彼のプロフィールを見てみると、肩書きには「スタンドアップ・コメディアン」とあります。アメリカにおけるスタンドアップ・コメディとは、マイク一本で舞台に立ち、観客とダイレクトに言葉を交わしながら、時に社会を風刺し、時に自虐を交えながら笑いを生み出すスタイル。いわば言葉の格闘技です。日本でたとえるなら、綾小路きみまろの“中高年いじり漫談”が少し近いかもしれません。ただし、アメリカのそれはもっと鋭く、時に容赦なく、政治や人種問題などにもズバズバと切り込んでいくのが特徴です。観客との距離も近く、笑いが生まれれば大きな拍手喝采を浴びますが、逆に地雷を踏めば一気に空気が凍りつくという、非常にスリリングな舞台でもあります。
「口は災いの元」とはよく言いますが、スタンドアップ・コメディの世界ではその“口”こそが最大の武器。攻めた言葉で笑いを取る代わりに、誰かを不快にさせてしまう危うさとも常に隣り合わせです。クリス・ロックも、決して悪意からあのジョークを言ったわけではなかったのでしょう。ただ、どんなに軽いつもりでも、相手の抱える傷や想像を超えた事情に触れてしまうことがある。笑いと侮辱、ユーモアと無神経。その境界線はとても曖昧で、だからこそ難しい。改めて、“笑わせる”ことの裏には大きなリスクが潜んでいるのだと、考えさせられる出来事でした。
いずれにしても、あの事件はおそらく両者にとっても、そして我々観客にとっても、忘れ難い教訓として心に残ることになるでしょう。
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